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テーマ : 長泉町

キスミレ 富士山麓が分布の北限地【しずおかに生きる植物 春④】

春の草原に咲くキスミレ
春の草原に咲くキスミレ
富士山麓を北限とする=富士宮市の朝霧高原
富士山麓を北限とする=富士宮市の朝霧高原
春の草原に咲くキスミレ
富士山麓を北限とする=富士宮市の朝霧高原

 愛らしい野の花「スミレ」は、誰からも好まれ、濃い紫のすみれ色が目に浮かぶ。一方、富士山麓には黄色のスミレが咲く。その名もキスミレである。
 九州の阿蘇山や久住山には一面にキスミレが咲き、見事な春の風景を展開する。ここ富士山麓はキスミレの北限地。山麓に広がるススキの草原、溶岩台地に春を告げる貴重な花である。
 スミレ科の植物の多くは樹木であり、南米が古里。アンデスの高地で木本から草本へ進化し、ロッキー山脈、ベーリング海峡を渡り、ユーラシア大陸の温帯域に広がった。
 キスミレは東アジアの朝鮮半島、中国山東半島や東北地方、ウスリー川流域に分布していた。氷河期、海水面が低下した陸橋を、朝鮮半島から九州北部に渡り、その後太平洋側を北上し、今日の富士山麓まで分布を広げている。
 キスミレの古里は温帯の草原だが、森が中心の日本では、草原は限られる。さらには草刈り、野焼き、放牧が草原を維持する条件。かつてススキは、かやぶき屋根や有機肥料、家畜の飼料など生活に欠かせない植物だったが、使われることなく放置され、いつの間にか低木が侵入し、やがて森へと変わる。
 キスミレをはじめ、草原の花たちは生きる場を奪われ、草原が伝えてくれる自然感も失われつつあるのが現状だ。人と自然の営みは時とともに移り変わる。
 多様で変化に富んだ自然から私たちは多くのことを感じ、心の糧にしてきた。その自然を失うのは寂しいこと。春がやって来るたびにキスミレが咲き、草原の花が咲き乱れる風景は、私たちの財産に違いないのだが。
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

 

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