テーマ : 袴田さん「再審」 最後の砦

「弟は無実、真の自由を」姉ひで子さん訴え 袴田さん再審初公判、検察は有罪主張

 現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定後、今年3月に裁判のやり直しが決まった元プロボクサー袴田巌さん(87)の再審初公判が27日、静岡地裁(国井恒志裁判長)で開かれた。袴田さんは心神喪失状態にあるとして出廷を免除された。罪状認否で、姉ひで子さん(90)が補佐人として「弟に代わって無実を主張します。真の自由をお与えください」と述べ、弁護団も無罪を訴えた。一方、検察側は有罪の立証に入った。

静岡地裁前で横断幕を手にする袴田巌さんの姉ひで子さん(左から2人目)ら弁護団。左端は足利事件で再審無罪になった菅家利和さん=27日午前10時24分、静岡市葵区(写真部・二神亨)
静岡地裁前で横断幕を手にする袴田巌さんの姉ひで子さん(左から2人目)ら弁護団。左端は足利事件で再審無罪になった菅家利和さん=27日午前10時24分、静岡市葵区(写真部・二神亨)
支援者と日課のドライブに出かける袴田巌さん=27日午後2時10分、浜松市中区(浜松総局・山川侑哉)
支援者と日課のドライブに出かける袴田巌さん=27日午後2時10分、浜松市中区(浜松総局・山川侑哉)
袴田巌さんの再審初公判が開かれた静岡地裁=27日午前、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判が開かれた静岡地裁=27日午前、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判に出廷するため、静岡地裁に入る姉のひで子さん(中央)と弁護団=27日午前10時28分、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判に出廷するため、静岡地裁に入る姉のひで子さん(中央)と弁護団=27日午前10時28分、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判に出廷するため、静岡地裁に入る姉のひで子さん(左端)と弁護団=27日午前10時28分、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判に出廷するため、静岡地裁に入る姉のひで子さん(左端)と弁護団=27日午前10時28分、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判の傍聴券を求めて列を作る人たち=27日午前、静岡地裁
袴田巌さんの再審初公判の傍聴券を求めて列を作る人たち=27日午前、静岡地裁
傍聴券を求めて列をつくる人たち=27日午前8時23分、静岡市葵区の静岡地裁
傍聴券を求めて列をつくる人たち=27日午前8時23分、静岡市葵区の静岡地裁
静岡地裁前で横断幕を手にする袴田巌さんの姉ひで子さん(左から2人目)ら弁護団。左端は足利事件で再審無罪になった菅家利和さん=27日午前10時24分、静岡市葵区(写真部・二神亨)
支援者と日課のドライブに出かける袴田巌さん=27日午後2時10分、浜松市中区(浜松総局・山川侑哉)
袴田巌さんの再審初公判が開かれた静岡地裁=27日午前、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判に出廷するため、静岡地裁に入る姉のひで子さん(中央)と弁護団=27日午前10時28分、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判に出廷するため、静岡地裁に入る姉のひで子さん(左端)と弁護団=27日午前10時28分、静岡市葵区
袴田巌さんの再審初公判の傍聴券を求めて列を作る人たち=27日午前、静岡地裁
傍聴券を求めて列をつくる人たち=27日午前8時23分、静岡市葵区の静岡地裁


検察は有罪主張
 事件の1年2カ月後に現場近くのみそタンクで赤みが残る血染めのシャツやズボンなど「5点の衣類」が見つかり、袴田さんの犯行着衣とされた。しかし再審開始を認めた今年3月の東京高裁決定は弁護団の鑑定や実験を踏まえ、1年以上みそ漬けされた血痕の赤みは失われると判断。衣類が捜査機関によって捏造(ねつぞう)された可能性が高いとまで踏み込んでいた。
 冒頭陳述で弁護団は、2014年の釈放後も袴田さんには回復しがたい精神的なダメージが残ったままだと説明。その責任は「重要な証拠を捏造した警察、無実を示す証拠を隠した検察にあり、それを安易に見逃してきた弁護人や裁判官にもある」と強調した。「ひいては、信じがたいほどひどい冤罪(えんざい)を生み出したわが国の司法制度も裁かれなければならない」とした。
 現場の状況を見れば、事件は複数犯による犯行であり、動機も強盗ではなく怨恨(えんこん)だと主張。「検察官の想定する犯人像は全く真実と違う」と位置付け、捜査当初から証拠の捏造などが続けられたことで袴田さんは犯人に仕立て上げられたと指摘した。「有罪立証を直ちに放棄し、袴田さんに本当の意味での自由な生活に戻させることに力を尽くすことが公益の代表者である検察官の職責」と結んだ。
 検察側は、袴田さんが「犯人か否か」が争点だと説明した。犯人であり、有罪だとする根拠は大きく三つあると捉えた。事件当時に袴田さんが犯人の行動を取ることができたとし、5点の衣類の血痕についても「赤みは残り得るため、(袴田さんが)事件後にタンクに隠したことと何ら矛盾しない」と主張。さまざまな事情が「全体として」犯人性を裏付けるとした。
 死刑囚の再審は、1989年に静岡地裁で無罪が言い渡された「島田事件」以来5例目。島田を含む先の4例は全て無罪に至った。
 次回公判は11月10日。
 (社会部・佐藤章弘)

袴田事件の経緯
 現在の静岡市清水区で1966年6月30日未明、みそ製造会社の専務=当時(41)=方から出火し、ほぼ全焼した。焼け跡から専務一家4人の遺体が見つかり、県警は同8月、強盗殺人容疑などで住み込み従業員の袴田巌さんを逮捕した。袴田さんは勾留期限の間際に「自白」したが、同11月の初公判で否認し、以降は一貫して無実を訴えた。80年に最高裁で死刑判決が確定。袴田さんの姉ひで子さんが2008年4月に第2次再審請求を申し立て、静岡地裁は14年3月、再審開始を認めると同時に死刑と拘置の執行停止を決定し、袴田さんは約48年ぶりに釈放された。
 一方、検察は地裁決定を不服として即時抗告。東京高裁は18年6月、一転して再審請求を棄却したが、袴田さんの釈放は維持した。最高裁は20年12月、審理不尽の違法があるとして高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻した。高裁は23年3月、検察の即時抗告を棄却。重要証拠が捜査機関に捏造(ねつぞう)された可能性が極めて高いと指摘した。検察は特別抗告を断念、再審開始が確定した。
 再審公判に向けた法曹3者の協議は4月、静岡地裁で始まり、7月には静岡地検が有罪立証を維持すると表明。地裁は10月、23年中の公判期日を指定し、袴田さんの出廷免除を認めた。

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