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袴田さん「関係ない」無実の訴え 取り調べ録音再生 再審第7回公判 【最後の砦 刑事司法と再審】

 無実を訴える声は次第にその力を失っていった。17日に静岡地裁で開かれた袴田巌さん(87)の再審第7回公判で、袴田さんの取り調べの録音テープが再生された。「何で殺さなきゃなんないの」。当初から犯行を強く否認していた袴田さんに対し、捜査機関が犯人と決めつけて謝罪や反省を迫り、“自白”に追い込む様子が生々しく流れた。

袴田巌さんの取り調べ録音テープ
袴田巌さんの取り調べ録音テープ


 「袴田さんがまだ元気な頃です」。弁護人が前置きして再生した任意同行時の取り調べの様子。袴田さんは「動機がないよ何にも」「関係ないものはないですよ、本当に」などと力強く強調していた。しかし、警察官や検事は「ほんとのことを言わなきゃ」「袴田。袴田。黙ってたってだめだよ」などとその後も執拗(しつよう)に自白を迫り続けた。取り調べは1日平均12時間、最大で16時間20分に上ったとされ、袴田さんは徐々に口を閉ざしていった。自白に転じた直後とされる1966年9月6日の録音には、「間違いないです」「ええ」などと消え入るような袴田さんの声が収められていた。
 録音テープは第2次再審請求審で初めて開示された。弁護団は、県警の記録に基づき、取り調べは計430時間を超えていたと説明。ただ、開示された録音テープはそのうちの47時間分に過ぎず、袴田さんが自白に転じた場面は入っていない。弁護団は捜査機関が取調室に便器を持ち込ませて小便をさせ、弁護士との接見を盗聴していたことも指摘し、「憲法で保障された基本的人権が侵害されていた」と批判した。
 袴田さんの姉ひで子さん(90)は「巌が拘置所にいるとき、(捜査機関に)どういう調べ方をされたか聞いても多くは語らなかった」と話し、「(当時の)刑事の調べをまざまざと感じた」とテープを聞いた感想を語った。
 袴田さんの肉声は一般傍聴者にも強い印象を残した。静岡市駿河区の無職小楠享司さん(64)は「テープは聞き取りづらかったが、袴田さんが次第に力をなくし、声が小さくなっていく様子が伝わった」と話し、沼津市の無職安本高之さん(81)は「袴田さんは密室でひどいことをされていたようで胸が痛かった」と語った。
 検察側は再審公判で自白調書を犯人性の立証に用いないとしている。静岡地検の奥田洋平次席検事は「客観的に認められる間接事実を積み上げて立証すべきと判断した」と理由を説明した一方、当時の捜査機関の取り調べについては「現代の刑事司法の常識から言えば不相当と言わざるを得ない」と述べた。

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