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特集 : 袴田巌さん

乏しい規定 再審実現、至難の業 法改正に関心薄く

 裁判をやり直す再審を巡り、法改正を求める声が強まっている。人権救済制度とされるが、規定が乏しく、当事者にとって再審の実現は事実上、至難の業となっているためだ。過去に改正されたことはなく、国政選挙で争点にもならない。議員立法という手段もある中、関係者は「政治家にとって票にならない分野で関心が薄い。誤判冤罪(えんざい)がある現実を知らなすぎる」と指摘している。

「再審法改正をめざす市民の会」の結成集会で、思いを語る袴田巌さんの姉秀子さん。法の不備が指摘されて久しい=2019年5月、東京都内
「再審法改正をめざす市民の会」の結成集会で、思いを語る袴田巌さんの姉秀子さん。法の不備が指摘されて久しい=2019年5月、東京都内

 再審は刑事訴訟法第4編(再審法)に規定され、その手続きは再審開始の可否を判断する再審請求手続きと、再審確定後に始まる再審公判手続きの2段階構造になっている。再審を求める当事者や日弁連などが長年訴えてきたのは法の不備だ。
 再審に関する条文は19しかない。再審請求の審理手続きについては、裁判所は必要に応じ「事実の取り調べ」をできる、とあるのみで打ち合わせの場さえ保障されていない。裁判官の積極性の違いにより、事件ごと審理の質に差が生じているとして「再審格差」との批判が上がる。特に問題視されているのが、証拠開示や、検察官の不服申し立てを制限する規定がないことだ。
 検察官は通常、有罪立証に必要な証拠だけを裁判所に出す。裁判員制度の導入で通常審では弁護側に幅広く証拠が開示されるようになったが、再審請求審は裁判官の理解と検察官の対応次第。一方、請求人側に有利な証拠が開示され、再審開始決定や再審無罪判決につながった例は多い。刑事司法改革をテーマにした法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会で法制化が議論されたが、2016年成立の改正刑訴法に盛り込まれず、検討課題とされるにとどまった。
 いったん再審開始決定が出ても検察官の抗告で決定が取り消されたり、確定までに時間がかかったりする。一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(85)は14年に静岡地裁で再審開始決定を受けたが、検察官の抗告で現在も請求審が続く。姉で請求人の秀子さん(88)も高齢で、請求権者の拡大も喫緊の課題の一つだ。
 日弁連は5度目となる再審法の改正案を作成中。「袴田事件」と「大崎事件」のクラウドファンディング資金を使い、課題を分かりやすく伝える市民向けの動画も完成した。再審法改正に関する特別部会の鴨志田祐美部会長は「まずは再審法改正の超党派議連の発足を目指す」と話した。

 ■改正求める流れ 地方に
 再審法の改正を求める流れは地方議会に広がり始めている。日本国民救援会によると、三島、下田市を含む全国61市町村議会が改正を求める意見書を可決した。世論の力でしか国政は動かせないとして、市民団体などは国会請願署名も集める。
 「冤罪犠牲者の会」は2019年、再審や冤罪について国会議員アンケートを行った。回答率は全議員のわずか2%だったが、会の発起人で茨城県で起きた「布川事件」で11年に再審無罪となった桜井昌司さん(74)は回答率の低さを「驚かなかった。世論の関心が高まらないと、変わらない」と受け止める。
 冤罪は国による最大の人権侵害とされる。他方、国や政治家は犯罪被害者の救済には力を注ぐが、冤罪被害者に向き合ってきたとは言いがたい。会は、国会に冤罪原因調査委員会を置くことも望む。
 誰でも冤罪に巻き込まれる可能性がある。ただ、「再審法改正をめざす市民の会」の共同代表でもある桜井さんは「自分の身に降りかかるまでは皆、他人ごと」と言う。それでも法改正は実現できると信じ、各地で改正の必要性を説いて歩く。

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