テーマ : 袴田さん「再審」 最後の砦

袴田さん再審初公判 冒頭陳述の要旨

 【検察側
 袴田巌さんの27日の再審初公判での検察側冒頭陳述要旨は次の通り。

事件概要と争点
 昭和41年6月30日夜、当時の清水市で発生した住居侵入、強盗殺人、放火事件。被告人が深夜、商店の専務取締役であるAさん方に金品を手に入れる目的で侵入した。家人に発見されたことをきっかけに、最初にAさん、妻Bさん、次女のDさん、長男のCさんを相次いでくり小刀で突き刺した。Aさんが自宅に持ち帰っていた商店の売上金の一部を奪い取るとともに、犯行を隠ぺいするために被害者の身体に混合油をまいて火を点け4人を殺害し、Aさん方を焼損させた事件。争点は被告人が犯人であるか否か。
事件当時の行動
 被告人が犯人であると主張する根拠は大きく分けて3点。1点目は「犯人がみそ工場関係者であることが強く推認される上、証拠から推認される犯人の事件当時の行動を被告人が取ることが可能であったこと」。くり小刀が犯行の凶器と認められるところ、みそ工場にあったはずの雨がっぱのポケットから凶器のくり小刀のさやが発見されたこと、みそ工場の混合油が放火に使用された可能性が高いこと、みそ工場内から血痕付着の手ぬぐいが発見されたり、風呂場壁面等から血痕が検出されたりしたことから犯人がみそ工場関係者であって事件当夜、みそ工場に出入りし、雨がっぱや混合油を持ち出して犯行時に使用したことや、犯行後にみそ工場に立ち入ったことが強く推認されること、そのような行動を被告人が取ることが可能であったと主張する。
5点の衣類
 2点目は「みそ工場の醸造タンクから発見された5点の衣類が被告人が犯行時に着用し、事件後に同タンクに隠ぺいしたものであること」。警察はそれらが被告人のものであるか否かを明らかにするため捜査を行った。その結果、①5点の衣類が事件前に被告人が着ていた衣類と酷似すること②緑色パンツの製造時期や鉄紺色ズボンが小売店に納品された時期が被告人が事件前から入手していたとして矛盾がないこと③被告人の母が事件前に被告人のために地元の衣料品店で緑色のパンツを買っていたところ、1号タンクから発見された緑色パンツが同じ製造元で造られたものであって被告人の母が買ったものであることが推認されることなどが明らかとなり、④被告人の実家から鉄紺色ズボンの共布(購入者のサイズに合わせてズボンの裾を切ったもの)が発見された。また5点の衣類に付着した血痕について、赤みが残り得るため、被告人が事件後に5点の衣類を1号タンクに隠ぺいしたことに何ら矛盾しないことを主張、立証する。
その他の事情
 3点目は「被告人が犯人であることを裏付けるその他の事情が存在すること」。被告人が事件直後、左手中指に鋭利なもので切ったと認められる傷を負っていたもので、4人の被害者をくり小刀で突き刺すなどした際に同小刀で負った傷であると考えられることなど。これらの事情が被告人の犯人性を推認させる程度には強弱があるが、被告人が犯人でなければ、これらの事情が全て事件と関係なく生じたと考えるのは不自然であり、全体として被告人の犯人性を裏付けていることを主張、立証する。

 【弁護側
 袴田巌さんの27日の再審初公判での弁護側冒頭陳述要旨は次の通り。
はじめに
 この法廷には袴田さんの姿はない。誤った死刑判決は袴田さんに48年間もの苛酷な拘置所生活を強い、回復しがたい精神的ダメージを与えた。本当に裁かれるべきは違法捜査を繰り返した警察や警察と共謀し犯罪的行為を行ってきた検察、見逃してきた弁護人及び裁判官であり、ひいてはえん罪を生み出したわが国の司法制度だ。動かぬ事実や証拠は、この事件が検察官が示した犯罪とはまったく別の犯罪であったことを示している。袴田さんが犯人であることは立証できない。
犯行・犯人像
 犯人は1人ではなく複数の外部の者であって、動機は強盗ではなく怨恨。犯人は被害者が起きている間に侵入し、殺害後に逃走した。被害者宅は隣家と接近しており、気付かれずに1人で4人を殺害するのは不可能だ。被害者はワイシャツを着ていたり、金属バンドの腕時計をしていたりしていた。起きていたことが裏付けられる。犯人が侵入してきた時、混乱がなかったことからすれば犯人は被害者と面識があった。被害者宅は物色された形跡がなく現金や貴金属も残っていた。
証拠のねつ造、虚偽の鑑定書
 被害者宅の中庭に落ちていた雨がっぱのポケットに(凶器とされた)くり小刀のさやが入っていた。このかっぱは動きにくく侵入時に着るとは考えられない。さやを入れたのは犯行と工場を無理に結びつけようとした警察だ。現場に落ちていた金袋二つは犯人が逃げる際落としたというが、金袋を置いたのも警察で、工場関係者に嫌疑を向けさせるためのねつ造だった可能性を考えざるを得ない。検察側は、袴田さんのパジャマから目には見えないが、袴田さんの血液型とは異なる血液が検出されたと主張しているが、血痕鑑定は虚偽だ。当時の鑑定技術からすると、肉眼で見えるような血痕がなければ血液鑑定などできない。
5点の衣類のねつ造に至る経緯
 逮捕後、長時間の取り調べで自白させ、その自白に合わせた秘密の暴露の虚偽の証拠を作った。だが、自白を確実に裏付ける証拠をねつ造することができず、もっと大がかりなねつ造を行わなければならなくなった。事件から1年2カ月後にみそタンクから発見された5点の衣類だ。再審請求審でこの衣類はねつ造証拠であることが明らかになった。検察側は、長期間みそ漬けになっても衣類の血痕に赤みが残る可能性を主張しようとしているが、証拠として価値はない。東京高裁は、長期間みそ漬けになれば、赤みは残らないと認定している。
結論
 検察官の作り上げた構図で真実の事件とはまったく異なる事実にされてしまった。袴田さんの無罪は明らか。検察官は有罪立証を放棄し、速やかに無実の袴田さんを無罪にし、本当の意味での自由な生活に戻させることに力を尽くすべき。袴田さんは無罪だ。

袴田さん「再審」 最後の砦の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞