テーマ : 袴田さん「再審」 最後の砦

大自在(3月14日)袴田さん

 「私はやっていません」-。法廷で被告人質問に臨む赤鬼。いつも金棒を持っていることを裁判員に問われた赤鬼は、金棒は鬼にとって伝統的な風習であり、村人を脅すためのものではない-と堂々と答える。
 日本弁護士連合会(日弁連)が2019年に裁判員制度10周年を記念して公開した動画「モモタロウ裁判」の一こま。鬼側の言い分を聞くうち、裁判員の一人は思い直す。「この鬼が本当は何もしていないとしたら…」。
 東京高裁は現在の静岡市清水区で1966年に起きた一家4人殺人事件で死刑が確定した袴田巌さんの裁判のやり直し(再審)を認めた。当時の捜査は元ボクサーの経歴を鬼の金棒のような印象操作に使った。欺いた世論で外堀を埋めながら自白を強要し、証拠捏造[ねつぞう]もいとわない-。そんな捜査が行われていたとすれば極めて恐ろしい。
 モモタロウ裁判では結局、村人を苦しめた真犯人は語られない。鬼が冤罪[えんざい]ならどこかであざ笑っている真犯人がいるはず。警察や検察が本来追及すべき真相が闇に葬られるとしたら、これほどの本末転倒はなかろう。
 真相究明には軌道修正は早いにこしたことはない。今の法律では検察が出したくない証拠は出さなくてもよく、再審が認められても検察が不服申し立てを重ねて不毛な長期化を招いている。日弁連が法改正を求めているが、大切なのは市民一人一人が関心を持つことだ。
 モモタロウ裁判の動画はこんなテロップで締めくくられる。「あなたの力は、司法に生きる」。日弁連からわれわれへのメッセージである。

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