「真実知りたい」傍聴希望者続々 「席拡大せず」に不満も 袴田さん再審初公判
現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定後、今年3月に裁判のやり直しが決まった元プロボクサー袴田巌さん(87)の再審初公判が開かれた静岡地裁では27日、午前8時ごろから傍聴希望者が続々と訪れ、整理券を求める行列ができた。地裁によると、一般傍聴席26席に対し、傍聴整理券を280枚配布した。
抽選に当たり、廷内で袴田さんの姉ひで子さんの意見陳述に心を動かされた傍聴者がいた一方、落選した傍聴希望者からは不満の声が漏れた。傍聴席を巡っては袴田さんの支援団体などが傍聴機会の確保を求めて地裁に席数の拡大を要望したが、実現しなかった。
同9時45分に地裁前の駿府城公園内と地裁のホームページで抽選結果が発表された。「真実を知りたい」と傍聴した富士市の会社員木下佳威さん(30)は「検察の新しい主張に注目していたが、めぼしい有力な情報は挙がらず、以前のものをなぞっているだけの印象が否めなかった。法廷内はひで子さんの意見陳述に涙する人もいて、自分も泣きそうになった」と振り返った。袴田さんを10年前から支援し、再審初公判を見届けた浜松市北区の牧師安間孝明さん(65)は「弁護団が『わが国の司法制度も裁かれるべき』と強く述べた姿が印象強く記憶に残っている。一日も早く袴田さんの無実が証明されれば」と願った。
初公判に使われたのは施設内で一番広い法廷ではなく、2番目に広い傍聴席48席の法廷。落選した静岡市清水区出身のパートの男性(71)=藤枝市=は「自分が中学2年の時に発生し、連日新聞やテレビで取り上げられる地元の大事件として見ていた。ひで子さんや裁判官の生の声を1人でも多くの人に届けるべきではないか」と批判。静岡市清水区のライター中川真緒さん(23)は「風化させないために私たち若い世代が何かしらの力になりたいと思ったが落選した。裁判は直接見ることで生々しさが伝わってくるので、もっとオープンになった方が司法が適切に運用されるのでは」と指摘した。東京都日野市のアルバイト大竹園代さん(72)は「朝5時半の電車に乗って来たが、抽選に外れた。これだけ社会的にも大きな事件なので、オンライン視聴などの対応があってもよかった」と訴えた。
次回公判11月10日 結審来年度か
袴田巌さんの再審公判は現時点で、初公判を含めて計12回の期日が予定されている。静岡地裁は当初、来年3月27日での結審を目指していたが、書証の取り調べに想定以上の時間がかかり、来年度にずれ込む可能性が高いとみられている。
第2回公判は11月10日、第3回は同20日、第4回は12月11日、第5回は同20日で期日を指定済み。年内で書証の取り調べを終えるはずだったが、弁護団によると、来年1月の2期日も充てる方向で調整が進められている。このため、年明けから予定していた証人尋問は早くても2月以降の実施に先送りされる見通しだ。
弁護団は「全体的に(審理の予定が)2期日分ぐらいズレていくイメージ」と説明する。その上で、尋問する証人の数を検察側、弁護団の双方が大幅に絞るなどしない限り、年度内での結審は「厳しい」とする。
袴田さん再審初公判 27日のドキュメント
午前8時 支援者が静岡地裁前に集合
午前8時15分 傍聴希望者が並び始め、整理券の配布を待つ
午前8時半 整理券の配布始まる
午前8時50分ごろ ひで子さんが浜松を出発「やっと始まる」。静岡地裁に足を運んだ「足利事件」の菅家さん「警察、検察は袴田さんに謝罪を」
午前9時45分 駿府城公園内で抽せん結果発表
午前10時15分 ひで子さん、静岡地裁に到着
午前10時40分 静岡地裁前で支援者が無罪訴え
午前11時 公判始まる
午前11時12分 公判でひで子さんが意見陳述「巌に真の自由を」
午前11時40分 冒頭陳述で検察「5点の衣類は被告人が着用し隠した」
午前11時42分 弁護側冒頭陳述「有罪立証放棄を」
午後0時14分 休廷(昼休憩)
午後1時17分 審理再開。巌さんは浜松の自宅で過ごす
午後2時10分 巌さん、支援者の車でドライブに出発
午後2時45分 再び休廷
午後4時53分 審理終了
午後5時26分 弁護団が記者会見
午後7時17分 巌さん帰宅