テーマ : 袴田さん「再審」 最後の砦

「意見表明と議論が基本」井柳美紀/静岡大教授 【最後の砦 刑事司法と再審㉑第5章国会議員アンケートより④インタビュー】

 静岡新聞社が全ての国会議員を対象に行った再審法に関するアンケートで、回答したのは4分の1に当たる187人だった。正直に「勉強不足で分からない」とした上で設問に無回答のまま返信した人もいたが、4分の3はそれさえしなかった。政治思想から地方政治まで詳しい静岡大人文社会科学部の井柳美紀教授(政治学)は、現状をどう分析するのか。

井柳美紀・静岡大教授
井柳美紀・静岡大教授

 ―4分の3の議員が答えなかったことへの見解を。
 「関心がないのか、意見がないのか。何も示さないのが不思議。どうなのか、と聞きたくなる。国民の代表である国会議員が意見を表明し、議論するのが代議制民主主義の基本であるべきだろう」
 ―結果全体の感想は。
 「回答率は与党の低さが顕著だが、野党も特別高い訳ではない。与党の場合はやはり、見直しに慎重な政府の見解がある中で配慮したのかもしれない。公明党は党幹部が問題解決に前向きな発言をしているため、回答率の低さは意外だった。全体としては、問題への関心そのものが低い、という印象を持つ。一方、再審法の改正に反対した人が1人もおらず、議員の意見が割れていないのは重要なポイントだと思う」
 ―地方議会では、国に再審法の改正を求める動きが少しずつ広がっている。
 「地方議会の声は国会議員の議論を前に進める可能性がある。都道府県レベルで(意見書の可決が)増えていけば意味は大きい。静岡県議会でも勉強会が意欲的に行われたようで、今後の動きを注目している」
 ―そもそも国会議員に求められる役割とは何か。
 「国民の意見を集約し、利益を調整していくことが一つ。同時に、潜在的な問題を自ら見つけて論点を明示し、世論を喚起していくことも大切な役割だと言える。再審法の不備については当事者や関係者からすでに問題として提起されている。応答するのが務めだ。そういう意味で、他県の議員よりも関心があると言える県内の議員が中心的な役割を担うことを期待する」
 ―「政治主導」がキーワードになって久しい。
 「1990年代の後半以降、政策中心の政治にシフトしようという流れの中で議員立法が増えてきた。これまでの議員立法は必ずしも世論に押されて実現したものだけではない。政治が判断するべき領域があり、まさに再審に関することは法務省が当事者であるので政治的な判断を要する。少なくとも、当事者を一歩出た場所での議論が必要だ。政治の司法への介入ではなく、あるべき司法制度を熟議することを意味する」
 ―「政治と金」の問題が信頼を揺るがしている。
 「『政治に金がかかる』と言われるが、政策形成に金がかかっているかというと、決して費やされていない現状がある。本来、政治が信頼される上では地道な政策形成への試みが大切。票になることだけをしていても信頼は生まれない」

 いやなぎ・みき 米国生まれ。宮城教育大准教授を経て2011年に静岡大准教授、15年から現職。主権者教育にも明るい。

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