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【第2章】学校の防災① 体育館の冷房進まず 避難所 熱中症対策急いで【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】

 南海トラフ地震が起きれば、多くの小中学校体育館が避難所になる。空調やトイレなどの設備は十分か。南海トラフ地震臨時情報が発表された場合、学校活動は休止するのか。第2章では自主防災会会長の東海駿河さん(71)やその家族と共に、学校の防災課題を点検していく。

 10月のある週末の晩。東海駿河さんと妻の伊豆美さん(66)は、同居している小学校教諭の長女富士子さん(33)と3人で食卓を囲んでいた。
 「最近やっと少し涼しくなったけど、今年の暑さは異常だわ。県内も5月から真夏日(最高気温30度以上)が始まって5カ月近く。体育館も熱気がこもって、のぼせるほど暑いし」。富士子さんは長い夏の疲労がたまった表情で嘆いた。
2019年度に吉田町が小中学校全4校の体育館に整備したエアコン=同町の吉田中
 東海さんは最近読んだ新聞記事を思い出した。「静岡県内の公立小中学校って、体育館の冷房設置率が1・9%(昨年9月現在)しかないらしいね。普通教室や特別教室を優先的に整備しているから、体育館はまだ先になるんだとか。そのため、スポットクーラー(可搬式冷風機)を活用している学校もあるようだ」
 9月の総合防災訓練で、東海さんが会長を務める自主防災会も近所の小学校で避難所の運営訓練を行った。参加した伊豆美さんは「体育館に大型扇風機はあったけど、各家族のスペースはパーティション(間仕切り)で囲われていて風通しが悪く、蒸し暑かった。私、夏場に何日間も寝泊まりできる自信がないわ」と不安を漏らした。学校体育館の多くは天井板がなく、屋根の裏側から日光を浴びた屋根の熱気がフロアに直接伝わってくる感じがしたという。
部活動の合間に可搬式冷風機で涼む生徒=長泉町の長泉中
 災害時を想像し、いろいろと疑問が湧いてきた東海さんと伊豆美さんは地元市役所の危機管理課を訪ね、担当職員に質問した。「学校の普通教室や特別教室にはエアコンがあるのだから夏場は教室を避難所として使えないんでしょうか」。担当職員は申し訳なさそうな顔で答えた。「災害が起きた場合でも学校はなるべく早期に教育活動の再開に努めるよう求められるので、教室と避難所はなるべく分けておく必要があります。ただ、感染症や熱中症で体調不良の避難者が発生した場合などは、エアコンのある教室で静養してもらうといった対応は可能と思われます」
 伊豆美さんは指定避難所の一覧を見ながら「地域の生涯学習センターとかはエアコンありますよね。学校より遠くにあるそういった施設に避難するのはだめですか」と質問した。担当職員は「地域によっては特定の避難所に行くよう決められている場合もあれば、選べる場合もあります。平時から確認しておいた方がいいでしょう」と助言した。
 帰宅した東海さんは、ふと気付いた。大きな地震や台風で停電が続けば、そもそもエアコンが使えない可能性もあるだろう、と。電池式の手持ち扇風機や、首回りを冷やすネッククーラー、肌に貼る冷却シートなど、「停電時でも熱中症を予防できる備蓄品をそろえておく必要があるな」と伊豆美さんと話し合った。
トイレの洋式、多目的化も必要  県第4次地震被害想定によれば、南海トラフ地震はレベル1(100~150年に1回の地震)、レベル2(あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震)のいずれでも県内の7割以上の地域で震度6弱~7の激しい揺れが予想される。自宅が被災するなどして避難所に集まる住民は県内で50万人以上と見積もられる。
南海トラフ地震で県内避難所に集まると予想される避難者数
 例えば静岡市では、指定避難所257カ所のうちの半数以上を公立小中学校が占める。市危機管理総室の担当者は「避難所はトイレの面でも課題が多い」と話す。大地震の直後は下水道の配管などが損傷していないか点検を終えるまでは避難者に水洗トイレの使用を控えさせ、便座に袋式の携帯トイレをかぶせて使うよう求める場合があるという。
 市は避難者を17万人余りとみて、1人当たり1日5回で3日分のトイレ使用に対応できるよう、携帯トイレや、段ボール箱が便座になる簡易トイレなどを備蓄済み。備蓄品のうち、個室を組み立てて排便をタンクに貯留する仮設トイレは1995年の阪神・淡路大震災後に購入されたもので大半が和式便座という。小さな階段を上る構造も含め、子どもや高齢者がやや使いづらい面もある。
 「県内でも学校によっては体育館にトイレ自体がなかったり、洋式やバリアフリーのトイレが少なかったりする場合もあるわ。老若男女のさまざまな避難者が安心して使えるかしら」と富士子さん。東海さんは翌日、近所に住む大学教員で元県職員の岩井山仁さん(68)に避難所の環境改善について意見を聞いてみた。
 岩井山さんは「災害時は緊急なのだから避難所は劣悪な環境でも仕方ない、という非文化的な発想はそろそろやめるべきです。高齢化も進んでいるし、一定の経費を投資するのは当然でしょう」と明快に説いた。
 「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定める憲法25条の生存権は、災害時や戦争中であっても国民が有する基本的権利だと岩井山さんは強調した。
明日へのメモ
 「東海さん一家の防災日記」で取り上げてほしいテーマや、地域・家庭での特色ある活動、県や市町の防災行政への意見などを募集します。情報を基に取材をさせていただく場合もあります。お住まいの市町名、氏名またはペンネーム、年齢、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「東海さん一家の防災日記」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください。

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