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富士山宝永火口の草本類 変化する荒原でたくましく【しずおかに生きる植物 夏③】

 富士山の南斜面中腹で、316年前の宝永4(1707)年、旧暦の11月23日、空前の大爆発が起こった。宝永大噴火である。山麓はもとより江戸の街まで火山灰が降った。かつて緑に覆われていた南東斜面は、瞬時にして火山砂礫[されき]が厚く降り積もり死の世界。生き物は全て姿を消した。

富士山中腹に姿を現す巨大な宝永火口
富士山中腹に姿を現す巨大な宝永火口
荒原にだけ生きるイワオウギ
荒原にだけ生きるイワオウギ
富士山中腹に姿を現す巨大な宝永火口
荒原にだけ生きるイワオウギ

 富士宮口5合目から歩いて約30分。シラビソの森を抜けるとそこは宝永第一火口壁。火口の大きさに驚かされる。直径は約1200メートルと山頂火口より大きい。
 火口底に目を移すと緑が点在し、斑紋状に、さらにじゅうたん状に広がる。300年以上の時が植物の侵入を許したのである。そこに生えるのはフジアザミ、コタヌキラン、イワオウギ、ムラサキモメンヅル、ヤマホタルブクロ、イタドリなど火山荒原に生きる草本類。周辺には木本植物のパイオニア、カラマツが背を伸ばしている。
 火山荒原は有機物に乏しく、保水力も無く、太陽に照らされ、風に吹かれ、その上絶えず崩れる。根をはって生きる植物にとってあまりにも過酷な生活地。しかし、これらの植物はそのような環境にだけ生きるのである。点々と生えていても土壌が安定し有機物が増えてくると、斑紋状から草原へ移り変わり、カラマツやミヤマヤナギなどの木本類が背を伸ばし、草原から低木林へと移り変わり、やがて豊かな森となる。
 しかし、自然環境は絶えず変化し続ける。雪崩や台風が押し寄せ、噴火を繰り返し、新たな裸地が生まれる。そこは再び火山荒原に生きるオンタデやフジハタザオの生活の場となる。自然は絶えず変化しながら安定した森を目指す。荒原に生き続ける植物のたくましさを感じる所でもある。
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

 

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