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メマツヨイグサ 変わりゆく帰化植物の風景【しずおかに生きる植物 夏④】

 「富士には、月見草がよく似合う」

帰化種メマツヨイグサが群生する朝霧高原=富士宮市
帰化種メマツヨイグサが群生する朝霧高原=富士宮市
夕暮れに花開くユウスゲ
夕暮れに花開くユウスゲ
帰化種メマツヨイグサが群生する朝霧高原=富士宮市
夕暮れに花開くユウスゲ

 太宰治の短編小説「富嶽百景」の一節は良い。俗な富士に目を向けることなく、月見草と対峙[たいじ]する太宰の姿が目に浮かぶ。だがやがて太宰は非凡なる富士に魅せられていく。彼が見た月見草は、外来種オオマツヨイグサと考えられている。
 富士の広大な裾野にはススキの草原が広がる。冬に野焼きが行われ、焼き開かれた春の野に地をはうようにスミレ、キジムシロ、ミツバツチグリ、ヒメハギなどが咲く。夏になると、ススキは背を伸ばし、ススキの背に負けじと大型の多年草が花開く。シシウド、ヒオウギ、ノハナショウブ、オオバギボウシ、ハンゴンソウ、コオニユリ、ユウスゲ、オオマツヨイグサと多彩である。
 このオオマツヨイグサの原産地は北アメリカらしいが、その後ヨーロッパで改良され、園芸種となり、世界各地に広がった。明治初めにわが国に移入され、庭から逃げ出したのだろう。全国に広く帰化したが、近年は減少し、代わって、花の大きさが一回り小さいメマツヨイグサが荒れ地に猛威を振るっている。
 富士山麓でもかつてオオマツヨイグサが生い茂っていたが、最近では見かけることは少ない。朝霧高原はもっぱらメマツヨイグサが主流である。帰化植物の風景も時代とともに移り変わる。
 夕暮れ時、草原に涼しい風が吹きわたる頃、メマツヨイグサ、ユウスゲが花開く。レモンイエローの花は夕闇に蛍光を放つようにひときわ目立つ。甘い香りを漂わせ、蜜に誘われたスズメガなどの昆虫がやって来て受粉を手伝う。高原の夕暮れ時、吹く風と花咲く風景は爽やかである。
 (文と写真・菅原 久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

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