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イソギク 環境に適応、旅を続け進化【しずおかに生きる植物 秋④】

 伊豆半島の秋は、イソギクが見事な花風景を見せてくれる。空の青と海の青、磯に連なるイソギクの黄色。一度は見たい花の風景である。

磯を彩るイソギクの群落=伊東市の城ケ崎海岸
磯を彩るイソギクの群落=伊東市の城ケ崎海岸
丸い黄色の筒状花が集まったイソギク
丸い黄色の筒状花が集まったイソギク
磯を彩るイソギクの群落=伊東市の城ケ崎海岸
丸い黄色の筒状花が集まったイソギク

 晩秋、わが国の岩石海岸はさまざまなキクの花に彩られる。太平洋側に目を向けるとコハマギクが北海道から本州茨城県以北で、1科1属1種の貴重なハマギクは青森県から茨城県まで分布する。
 茨城県南部から高知県物部川に至るまでは、舌状花のないイソギクの仲間の世界となる。イソギクは房総半島から伊豆半島、さらに御前崎まで、紀伊半島はキノクニシオギクが、徳島県蒲生田崎から物部川まではシオギクが分布する。さらに西に、白い舌状花を開くノジギクの仲間の世界へと続く。ノジギクは牧野富太郎が園芸菊の原種と考えた野生菊である。
 イソギクの仲間は、いずれもよく似ており、地理的な分化が進んだものと考えられている。その親は高山の岩場に生えるイワインチンのようだ。
 氷河期、高山の植物は温暖な海辺まで避難し、寒さに震えながら岩陰の避暑地でほそぼそと過ごしたに違いない。温暖な間氷期を迎えると、再び古里の高山へ帰り、今もそこで生き続けている。しかし海辺の温暖な崖に取り残され生き延びてきたのが、イソギクの仲間である。
 植物は、私たちの時間とは異なった数万年、数十万年、いや数百万年の時間の中で生き続ける。その時々の環境に適応しながら進化したのが今の姿である。
 また、イソギクが分布する房総半島から御前崎にかけては、E・ナウマンが1886年に提唱したフォッサマグナ地域に当たり、イソギクは太平洋側の岩石海岸に生える「フォッサマグナ要素」の代表種である。
 伊東市の城ケ崎海岸では波打ち際からイソギク、アゼトウナ、トベラ、マルバシャリンバイなどの群落が見られ、さらにクロマツ林へと続く。晩秋の1日、磯浜の散策はお勧めである。(文と写真・菅原久夫/富士山自然誌研究会長、長泉町)

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