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スイセン 海辺で野生化、春告げる(菅原久夫/富士山自然誌研究会長、長泉町)

 冬のさなか、小さな真っ白な小皿の上に黄色のカップを乗せたようなかれんな花を咲かせ、ほのかに爽やかな香りを放つスイセン。越前、土佐、伊豆、房総などの海辺で野生化した。下田市須崎の爪木崎は訪れたい大群生地である。
 スイセンはヒガンバナ科。花は外側にがくが3枚、内側には花弁が3枚あり、がくと花弁はよく似ているため花被片と呼ぶ。雄しべが6本、子房が3室。単子葉植物の多くは、3を基本とする花の構造で、「3数性」と呼ばれる。
 スイセン属の学名はナルキッスス。ギリシャ語で「まひさせる」を意味する。ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスは泉に映る自分の姿に恋いこがれ、やがて死んでしまう。そのほとりにはひっそりとスイセンが一輪咲いていたという。ナルシシズム(自己愛)の語源となる。
 スイセンの仲間は、ヨーロッパの地中海沿岸からトルコ、イランへと続く北緯40度周辺の地中海性気候の地域に分布する。そこはチューリップ、アネモネ、クロッカス、ヒヤシンス、ムスカリなど球根植物の世界である。冬に雨が多く、夏は日照りの乾燥が続く地。植物の多くは夏に休眠し、秋から冬に花開く。わが国とは逆である。
 わが国の冬は常緑の草本類は少なく枯れ野である。季節を逆手にスイセンは冬の太陽を独り占めにし、花咲かせ、球根に養分を蓄える。染色体が3倍体で種子はできず、もっぱら球根で仲間を増やす。
 スイセンがいつごろ日本に流れ着いたのか、人が持ち込んだのかは明らかでない。全草に有毒なアルカロイドを含む。スイセンの葉をニラと、球根をタマネギと間違えるという中毒事故がしばしば報告される。気をつけたいものである。
 中国名の「水仙」がそのまま和名に。金のさかずきに銀の台という意味の「金盞銀台[きんさんぎんだい]」と美しい異名もある。真冬に花咲くスイセンは冷たい風が吹いていても確かな春を告げてくれる。
 (文と写真・菅原 久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

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