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「ベルナール・ビュフェ 偉才の行方」 ベルナール・ビュフェ美術館(長泉) ㊦時代からの解放 進化目指した孤独な格闘

 ベルナール・ビュフェ美術館(長泉町)で開催中の開館50周年記念展「ベルナール・ビュフェ 偉才の行方」の出品作を2回の特集で紹介し、ビュフェへの評価の変化と時代背景、再評価の機運が高まる今を読み解く。2月27日公開の「上」に続く「下」のテーマは「時代から解放されたビュフェ」。時代性に左右された作品発表時の扱いから離れ、後世の今ビュフェを見る意味とは。静岡県立美術館学芸部長や静岡文化芸術大学教授を歴任し、西洋美術史を研究してきたベルナール・ビュフェ美術館の小針由紀隆館長が解説した。
 →2月27日公開記事「㊤時代と共に」はこちら。
photo03 「ニューヨーク:マンハッタン」1958年
 1958年1月、パリの画廊に長蛇の列ができた。ベルナール・ビュフェ(1928~99年)の個展をみるために集まった人たちの列である。ビュフェはまだ29歳だったが、沸騰する人気はすでにピークに達していた。しかしこの頃から、ビュフェの俗っぽい題材選択と派手な私生活は、批判と中傷の標的にされ始めた。アンチ・ビュフェへの評価の急転は、戦後フランス美術界の寵児となった彼を、暗黙の裡[うち]にパリから排除していった。全生涯にわたるパリでの最初の回顧展は、没後17年を経た2016年まで開催されなかったのである。
photo03 「肘をつく男」1947年
 それでもビュフェはひたむきに描き続けた。支援してくれるパリの画廊で、1952年から毎年2月にテーマ展を開催した。ビュフェは毎年一つのテーマを設定し、テーマにあった作品を制作・公開した。選択されたテーマはいつも異なりバラバラで、脈絡のないものだった。自らの意思で変わろうとしていたビュフェにとって、同じテーマの繰り返しは回避すべき行為だった。彼はマンネリに陥ることを恐れ、自らを進化させようとしていた。それは自分自身との孤独な格闘であった。
photo03 「皮を剥がれた人体:頭部」1964年
 寡黙なビュフェは手記や芸術論を残さなかった。彼の芸術の真価を問おうとしても、よりどころは作品だけなのである。線、色彩、空間など、表現上のニュアンスを感知し、彼の心の襞[ひだ]に隠されている思索の動きを読み込んでいく。しかし、ビュフェの芸術家としての本意は、世界中に広まった空前の大衆人気の裏側に潜み、かなり見えづらくなっている。ビュフェの感性と思考は、例えば冷徹なまなざしが向けられた米ニューヨークの街、画家の狂気を宿した皮を剥がれた人体、描くことしかできないと自覚した画家自身の姿に見え隠れしている。こうした作品には、画家の声も聴きとれそうだ。
 フランスに続き日本でもわきあがるビュフェ・リバイバルの気運。「ベルナール・ビュフェ-偉才の行方」展は、一人の芸術家の生きざまを、作品を通してたどる絶好の機会となっている。
photo03 「自画像」1981年
開館50周年記念展「ベルナール・ビュフェ 偉才の行方」  ■会期
 11月24日まで。水、木曜は休館。祝日の場合は開館し、金曜を休館
 ■会場
 ベルナール・ビュフェ美術館(長泉町東野クレマチスの丘515の57)<電055(986)1300>
 ■開館時間
 3~11月は午前10時~午後5時(最終入館は閉館の30分前)
 ■入館料
 大人1500円(20人以上の団体1400円)、高校・大学生750円(同650円)、中学生以下無料

 主催 ベルナール・ビュフェ美術館 静岡新聞社・静岡放送
 特別協賛 スルガ銀行

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