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時論(7月28日)学校図書館に文学賞作品を

 永井紗耶子さんの「木挽町[こびきちょう]のあだ討ち」が第169回直木賞に決まった。5月の第36回山本周五郎賞に続く“2冠”である。
 本人による略歴に「生まれは駿河の島田宿」とある。受賞会見では島田大祭・帯まつりに言及していた。人生の大半を県外で過ごしたにもかかわらず「静岡」を特別な存在として扱ってくれた。県民の一人としてうれしかった。
 決定から1週間余。今、この作品を手に入れるのは至難の業だ。主要書店には姿がない。「月末に新潮社が増刷するようだ」。独立系書店店主の言葉が頼りなく響く。
 巡り合わせだろうか。店頭をにぎわせているのは、2021年の第164回で芥川賞に選ばれた宇佐見りんさん(沼津市出身)の「推し、燃ゆ」である。新装文庫版の「全世界で80万部突破!」と書かれた帯がまぶしい。
 作家の勲章は受賞歴だけではない。ただ、近年の文学賞レースにおける“県勢”の評価の高さは特筆すべきだろう。2年連続山本賞候補の吉川トリコさん(浜松市出身)、第25回中原中也賞の水沢なおさん(長泉町出身)。「第20回R-18文学賞」を受けた宮島未奈さん(富士市出身)の「成瀬は天下を取りにいく」は、売り上げ上位を保持する。
 県教委は、高校生の読書習慣の定着に躍起だ。22年度調査によると、6割弱は「ほとんど読書をしない」という。閉塞[へいそく]した状況を打ち破るために「文学賞」の金看板を活用したい。卑俗のそしりを受けるかもしれないが、学校図書館に本県関係者の受賞作を重点的に配ったらどうか。
 大人でも「直木賞だけは読む」という人は珍しくない。文学賞と「読書のきっかけづくり」は相性がいいはずだ。
(教育文化部長兼論説委員・橋爪充)

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