森町三倉地区 赤屋根輝く地域の象徴 「火の見櫓」編③【アートのほそ道】
太田川を北上した支流沿いに広がる森町・三倉地区。許禰[きね]神社の白い鳥居のはす向かいには、白壁の家屋を背景にほっそりとした白亜の火の見櫓[やぐら]がそびえ立つ。青空へと伸びる12・5メートルのてっぺんでは、陽光を受けた赤い屋根が輝いた。「三倉の火の見櫓」は地域のシンボルとして長く親しまれてきた一基だ。
赤屋根の下には半鐘と円形の見張り台。そこから狭い八の字型に根を下ろす櫓の中頃には「消防信號」と題したさびた金属板が。火災信号の近火は連打、出動は3点打、火災警報の発令は1点と4点の斑打[はんだ]と半鐘のたたき方が詳細に残る。
土台には「昭和二十八年十二月建之 独立記念」の文字が刻まれ、サンフランシスコ平和条約による日本の主権回復を祝して建てられたとみられる。近所に住む西尾吉弘さん(82)は「子どもの頃は遊んで登ったりした」と懐かしむ。西尾さんが地元三倉中を卒業した際の記念品にも櫓が大きく描かれるなど、地域を象徴する景色を作っている。
森町防災課によると、1992年に48基を数えた町内の火の見櫓は現在29基まで減少。腐食の進行や住民の要望に従って年に1~2基のペースで解体が進む。「櫓の本来の役割は終わり、修繕費がかさむ。惜しむ声もあるが他部署や民間への移管も手が上がらないのが現状」と話した。
(教育文化部・マコーリー碧水)