森町・小国神社 神事の酒 伝統継承
秋が深まる10月半ば、森町一宮の小国神社では古式神酒の醸造が始まる。祭礼に供する神饌(しんせん)の工程を本紙に公開した。取材が入るのは「歴史上初めて」(神職)。戦争も感染症も乗り越え、連綿と続く神事の酒造りに迫った。
プスッ…プスッ-。本殿隣の神饌殿。普段立ち入ることのできないこの場所で作業が行われる。発酵が進み、気泡のはじける音とともに甘い香りが部屋中に漂っている。「今年は天候に恵まれてこうじの調子が良く、いつも以上においしく仕上がった」。醸造を担う林圭祐権禰宜(ごんねぎ)がうなずく。
蒸した地元・一宮産の新米とこうじを混ぜて酒母を作り、境内の井戸水と酒だるに仕込む。日陰で寝かせながら欠かさずかき混ぜると、次第に液体へと変化。およそ1カ月で白酒(しろき)となる。最初に完成した酒は新嘗祭(にいなめさい)で、一年の収穫への感謝を込めて神前にささげる。
製法は口伝。記録が残る明治時代から、手法を変えず受け継がれてきた。時代の潮流の中で断絶の危機もあった。氏子や神職ら、醸造に関わる人々の“伝統を絶やさない”との思いが継承を支えている。
蒸し上げた新米とこうじを混ぜ合わせ酒母を作る=10月12日
酒母と境内の井戸からくみ上げた水を酒だるに仕込む=10月12日
発酵が進んだ古式神酒を確認する神職=11月9日
拝殿で執り行われた新嘗祭。一年の収穫に感謝をささげた=11月23日