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SNSへの親子の生活投稿、慎重に 子どもの気持ち見極め大事【NEXTラボ #変わる暮らし】

 多くの人がSNS(交流サイト)を利用する現在。子育てや子どもとの生活についての投稿が盛んになる一方、子ども自身が成長とともに拒否感を示したり、情報の悪用が心配されたりするなど、リスクの再認識が求められている。子どもの不利益にならないために親にどんな認識が必要か。経験者や有識者と考える。
親子アートユニット「アーブル美術館」として活動する藤原晶子さん
 誰もが知る名画を模写したどこかほほ笑ましい絵画作品で人気を博す親子アートユニット「アーブル美術館」。県内を拠点に2人の子どもたちと10年以上にわたって活動してきた藤原晶子さん(47)は、ウェブ上での子どもの情報発信について試行錯誤してきた。
 作品を多くの人に見てもらおうと、活動開始と同時期にブログを始め、当初は子どもたちの顔も名前もオープンにし、制作過程などを詳細に投稿した。「活動の備忘録のつもりで、ありのままを書いていた」という。
 考えを変えたのは、テレビなどメディアでの露出と相まって、子どもたちが学校や普段の生活の中でさまざまな人に声をかけられるようになってから。2人は制作自体は楽しんでいたが発表に対する関心は薄く、作品を面白いと感じて世に出したのは藤原さんの意思だった。
 「子どもたちは内向的で、そこまで親しくない人に活動を知られるのを恥ずかしがった。作品を見てもらうことはうれしそうだったけれど、リアルな自分と結びつけられてしまうことには抵抗があったのだと思う」
 藤原さんは、次第にメディアの取材に子どもたちの名前を出すのをやめ、撮影も後ろ姿のみを条件に対応するように。ブログも同様にし、旅先などでのリアルタイムの投稿をやめる、場所が特定できる写真は使わない―など、書き方を改めた。他のSNSでも、作品そのものに着目して発信するようにした。
 活動が知られるようになると、知らない間に活動情報をまとめたサイトができていて驚かされた。善意のファンの熱意に感謝する一方で、「もし好意的でない利用のされ方をしたらどうか、という意識は常に持って情報を発信している」という。
 子どもとの間に共通の認識やルールを作ることも重視し、「活動も情報発信も3人のうち1人でも嫌だと言ったらやめる」と決めている。ただ、「子どもに言われてからでは遅い面もある」というのが実感だ。「子どもはある程度大きくなるまでは、自分の意思をはっきり認識できない。当面は親が自分の責任でここまでと決めるべき」
 今年は、人気子育て漫画「毎日かあさん」の作者西原理恵子さんと、作品に描かれた長女との確執がウェブメディアなどで取り沙汰された。長女はSNSで「許可なく作品に個人情報を書かれた」と訴えている。藤原さんは複雑な思いで受け止めた。「情報発信を巡って子どもが嫌だと感じることが重なれば、『親は自分のことしか考えていない』と思われる。子どもの気持ちを慎重に見極めないと、親子関係が壊れかねない」
 SNSは、親子関係の中の氷山の一角。SNSを巡って親子に摩擦が生じるかどうかは「普段の生活の中で、どれだけ子どもといい距離感を保ち、信頼関係を築いているかの現れ」と持論を語る。
 一方でSNS上では、一見問題のない発信でも、受け取る側次第で予期しない誤解や反感が生じることもある。投稿する側が慎重になるのはもちろんだが、藤原さんは誰もがSNSに含まれる誇張や演出に自覚的になるべきだとも感じている。「SNSの投稿は、読み手を想定している時点で一種のフィクションのようなもの。まともに受け取れば、自分や相手を傷つけかねない」

アンケート 子どもに関する投稿「する」3割弱 
 静岡新聞社の「NEXT特捜隊」が行ったアンケート(回答者82人)では、親や祖父母の立場で回答した78人のうち、自分の子ども(孫)に関する内容をSNSに投稿することが「よくある」「たまにある」とした人は22人で、3割弱だった。
子どもの写真や話題をSNSに投稿することがありますか?
 そのうち投稿を巡って、子ども自身や周囲と何らかの問題が起きた経験が「ある」とした人は5人。清水町のパート女性(50)は「子どもがスポーツで活躍している様子を投稿したら、本人に自慢しているみたいで嫌だと言われた」、静岡市葵区のパート女性(43)は「知らない人から質問のダイレクトメッセージが来て、やりとりしているうちに女児の性的な内容が含まれるようになった」と経験を記した。
 静岡市清水区の自営業女性(40)は「子どもがいじめられたことについて、鍵付きのアカウントだったが相手が特定できる書き方をしてしまい、トラブルになった」と明かした。
 子どもについてSNS投稿する理由(複数回答)は「家族や友達に近況を知らせたい」「子どもの成長記録を残したい」「子育て中の人とつながりたい」の順で多かった。部活動仲間との励まし合いや、同じ障害のある子どもを育てる親とつながるといった具体的な目的を掲げる人もいた。
 子どもの立場からの意見もあり、富士市の男子学生(18)は「公開アカウントでの投稿は理解できない。親のエゴでしかない」、浜松市北区の女子学生(16)は「面白い会話などならいいけれど、個人情報や愚痴は書かないでほしい」とした。
 親のSNS投稿についての考えはさまざま。「子どもの将来を考えればどんな投稿でもだめ」=浜松市南区、会社員女性(47)=や「子どもを親の承認欲求を満たす道具にすべきでない」=伊豆の国市、自営業女性(41)=と否定的な意見もあった。
 一方で、子どもの意思を尊重し、公開内容や範囲を限定するなどの条件で肯定する人も多かった。「高校生になると子どもからやめてほしいと言われ、その後の就職や結婚なども考えて投稿しなくなった」=三島市の自営業女性(56)=などと、子どもの成長に応じて控えるようになった人も複数いた。
 アンケートは2~5日に公式LINEを通じて実施した。

 将来への影響も想像して 千葉大 藤川大祐教授インタビュー
 子どもに関するSNS投稿の際、親が踏まえるべきことは。メディアリテラシーなど新しい分野の授業作りに取り組む千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)に聞いた。
藤川大祐 千葉大教授
 -どんなリスクを認識しておくべきか。
 「生成AIの発達もあり写真が加工されて悪用されるリスクは高まっている。悪くすれば性的な交流サイトや児童ポルノなどに転用されかねない。極めて低いとはいえ、複数の個人情報が集まれば、誘拐といった犯罪に巻き込まれる可能性もある」
 ―投稿時の注意は。
 「個人情報は単体では意味をなさないが、組み合わさることで一気に悪用のリスクは高まる。名前と顔、学校、自宅、自宅の外観や間取り、生活スタイル。そうした情報を一致させてしまうような投稿は意識して避けるべきだ」
 ―SNSにはさまざまな種類がある。
 「それぞれ特性があり、X(旧ツイッター)やインスタグラムなど、複数アカウントを作ることが可能なサービスは、悪意ある第三者が入り込みやすく、より警戒が必要だ。どういう目的で子どもの情報を発信するのかを明確にし、それに応じて公開範囲や内容を精査するのも大事になる」
 -親の基本姿勢は。
 「子どもの権利は子どものものという原則を忘れないこと。子どもが幼いうちはある程度親が代行して行使できるが、自分のものだと勘違いすれば、親子関係に亀裂が生じかねない。大事なのは親の想像力。子どもが大きくなってからやめてほしかったと言う可能性も含め、将来にまで責任を持つ意識が必要だ」
 ―中傷などのトラブルはどうすれば避けられるか。
 「匿名なら受け流されるようなことも、顔出し実名では嫉妬を買ったり、トラブルを招いたりしやすい。また、社会にはかつてない分断があり、子育ての苦労に関する投稿でも、欲しくても子どもができない人や望んでも結婚できない人にとってどうか、と考える冷静さが必要だ」

いい茶0

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