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生活困窮脱却へ ロボで就労支援 静岡県が体験事業 県庁内喫茶店

 メンタル面や障害などで就労に困難を抱える生活困窮者の自立支援のため、静岡県はこのほど、県庁の喫茶店に遠隔操作ロボット「オリヒメ」を設置し、リモートで接客する就労体験事業を始めた。人とのコミュニケーションが苦手な人などに就労への自信を得てもらうのが狙い。県内でもひきこもりなどの生活困窮者は新型コロナウイルス禍を経て倍以上に増加。生活保護を受けずに済むよう、県は多様な支援策に取り組む。

就労体験者が遠隔操作し、接客サービスを行う「オリヒメ」(左)=12月下旬、県庁東館「喫茶ぴあ~」
就労体験者が遠隔操作し、接客サービスを行う「オリヒメ」(左)=12月下旬、県庁東館「喫茶ぴあ~」

遠隔操作、対面の恐怖少なく  「おなかすいてませんか。今日のおすすめはカニクリームのオムライスです」
 ランチタイムを迎えた県庁東館2階の「喫茶ぴあ~」。プリンやバッグなどの授産品が並ぶ店頭で、高さ23センチのオリヒメが来庁者に話しかけた。この日操作したのは富士市ユニバーサル就労支援センターの利用者の女性。同事業では参加を希望した県内の就労支援施設などの約10人が3月上旬までの平日正午~午後1時、交代で接客する。就労体験のため賃金は伴わない。事業の成果次第で、2024年度の継続も検討する。
 オリヒメはカメラとマイクを内蔵し、首を振って相手を見たり、手を振ったりしてコミュニケーションを取れる。操作者は相手の顔が見えるが、相手からは自分の顔を見られず「ストレスを感じることが少ない」(県地域福祉課)。この日操作した女性は以前に接客の仕事をしていたが、人と対面で話すことが苦手になり今は働いていない。オリヒメでの就労体験で「少しずつ恐怖心がなくなれば」と再就労に意欲を示した。
 生活困窮者とは生活保護を受給する前段階の人が想定され、ひきこもりなどの社会的孤立者も含む。自立支援のため、県は23年度の新規事業でオリヒメ設置のほか、就労体験を受け入れる協力企業の開拓などに予算計700万円を充てている。
 オリヒメの開発企業「オリィ研究所」(東京)の高垣内文也事業部マネージャーは「自立支援は国としても大きな問題で、県がこのような取り組みを始めるのは重要。この取り組みを県内の他の自治体にも広げていきたい」と話した。
 (社会部・瀬畠義孝)

働きづらさ 行政も支援 富士市は就労推進条例施行  県によると、県内各市町の社会福祉協議会などの自立相談支援機関に初めて相談した生活困窮者は2015~19年度は6千~7千人台だったが、新型コロナの感染が拡大した20年度には約2万3千人、21年度も約1万5千人とコロナ前の倍以上に増えた。生活保護受給者も21年度に1カ月平均で約3万2千人にまで拡大し、国や自治体の財政を圧迫している。
 15年度に施行した生活困窮者自立支援法は、各自治体に相談窓口の設置を義務付けた。働きづらさを抱えながらも就労を希望する市民に働く喜びを感じてもらおうと、富士市は17年度、全国初の「ユニバーサル就労推進条例」を施行。個々人の状況を踏まえ企業とのマッチングなどをサポートしている。オリヒメによる就労体験にも利用者4人が参加する同市ユニバーサル就労支援センターの支援員は「対面での会話が困難でもオンラインなら大丈夫という利用者もいる。仕事が多様化する中、就労体験が自信につながり、就労への一歩になれば」と期待する。

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