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鈴木香峰「秋景山水図」 明治13(1880)年 中国文人への強い憧憬 富士山かぐや姫ミュージアム【コレクションから㉖】

 せり出した岩山と、その間を流れ落ちる水。水の行方を追うと、戸外に集う3人の人物と供。1人は琴を抱え、1人は巻子を手に持つ。赤い衣の供は、涼炉で湯を沸かし煎茶の支度に忙しい。木々の葉は赤や黄に色づく。彼らは秋の清涼な空気のもと、煎茶をたしなみながら高雅な世界に浸る趣向であろう。中国の文人への強い憧憬[しょうけい]が表された、いわゆる文人画である。

富士山かぐや姫ミュージアム 鈴木香峰「秋景山水図」 明治13(1880)年
富士山かぐや姫ミュージアム 鈴木香峰「秋景山水図」 明治13(1880)年

 作者の鈴木香峰(1808~85年)は、幕末の東海道吉原宿(富士市)において問屋役を務め、晩年には文人画に傾倒し静岡県南画界の巨人と称された。
 江戸出身の香峰であるが、婿養子に入った脇本陣鈴木家には、江戸の国学者や書家、画家などによる多くの書画や書簡が伝わり、韮山代官・江川家や近隣の素封家とも広く交流していた。
 本作が伝わったのも静岡市の素封家・沢野家である。落款に記された沢野士峰(本名・沢野精一、1835~1915年)は、袖師村初代村長、後に県議となる人物で、茶園経営や茶の輸出をはじめ、主に茶業の振興に貢献した一方で、庵原郡出身の岸派の画家・柴田泰山(1818~84年)に画を学んだ。泰山は香峰とも交流があり、本作誕生の所縁を想起させる。
 香峰の知性と、広い知のネットワークが垣間見える作品である。
 (高林晶子・学芸員)

 メモ 富士山かぐや姫ミュージアム 富士市伝法66の2<電0545(21)3380>
 23日から開かれる「伝えていくもの~博物館のNew Face~」展に出品される。

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