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【第4章】半割れ発生(後編)③人命救助で割れる意見 余震やまず街が被災【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】 

 四国沖でマグニチュード(M)8.0の大地震が起き、気象庁が後発地震への警戒を呼びかける南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表してから約1年半が経過した。津波浸水想定区域に住む要配慮者らに事前避難が呼びかけられた「地震発生から1週間」はとうに過ぎ、市民が自宅での通常生活に戻った中、「その日」は突然訪れた。
余震やまず 街が被災
 遠州灘を震源とするM8・5の地震が発生して約40分が過ぎた。寒さが厳しい1月の午前2時前。防災行政無線からサイレンと音声のメッセージが繰り返される。
 「大津波警報。巨大な津波が来ます。直ちに海岸や河川から離れ、高い場所に避難してください」
 東海駿河さん(73)が住む地域は津波ハザードマップでは浸水想定区域外だ。だが、既に沿岸部に到達した津波第1波から逃れようと、同区域の住民が車や自転車、徒歩でなだれ込むように避難してきた。
 近所に住む岩井山仁さん(70)と協力して倒壊住宅の下敷きになった高齢者を救出した駿河さんは、避難してきた親子連れから「この地区の避難所はどこですか」と尋ねられた。「そうだ、避難所を早く開けないと」。自主防災会会長の駿河さんは避難所の小学校に隣接する自治会館に向かっていたことを思い出した。岩井山さんから「ここは私たちに任せ、東海さんは早く避難所へ」と促された。
 駿河さんがミニバイクで出発しようとしたその瞬間、余震の猛烈な横揺れが襲った。ガッシャン、ガッシャン、ガッシャン―。まるで街が悲鳴を上げるように、音を立ててきしむ。駿河さんと岩井山さんは頭を守って地面に伏せることしかできなかった。約2分後、揺れが収まって周囲を見渡すと、液状化などで道路が割れ、ブロック塀が倒れて散乱し、電柱も傾くなど街がズタズタに壊れていた。
 「遠州たちは無事なのか」。駿河さんは長男遠州さん(38)一家の安否を確認しようとスマートフォンを操作したが、依然として電話もインターネットもつながらない。裏山が崩れた状態で自宅2階にいるはずの妻伊豆美さん(68)らも心配だが、「自分は自主防災会会長としての務めを優先しなければ」と唇をかみしめ、慎重にミニバイクを運転して自治会館に向かった。
 この地域の1次避難場所である自治会館隣の広場に着くと、地元住民と浸水想定区域から避難してきた人々が計80人ほど集まっていた。自主防災会副会長の大池将斗さん(72)が、地域の各組長と話し合っている。「倒壊した住宅がたくさんある。下敷きになっている人を助け、手分けして安否確認もしないと」「でも余震が怖い。人を助け出すにも、われわれの体力では限界がある」。住民の間で意見が割れていた。
 すると無線機を持った消防団の分団員2人が到着し、状況を説明した。「消防と警察は津波と火災の被災者救助に全力を挙げていて、個々の倒壊住宅にまで手が回りません。われわれ消防団員が連絡を取り合い、できる限り救助に努めていますが…」。1月の未明とあって気温は低く、避難者がこのまま広場で長時間耐えるのは厳しい。駿河さんは小学校の体育館に避難所を開設する準備に取りかかった。

地震発生後の主な動き(架空のシナリオ)  Q&A 避難所の開設と運営 
 Q 避難所の開設や運営は誰が担うのか。
 A 各市町の指定避難所は自主防災組織が主体となって立ち上げ、開設した後は避難所利用者をメンバーとする「避難所運営組織」を設けて運営を引き継ぐのが基本となる。
 Q 市町や学校は。
 A 指定避難所の運営には市町や施設管理者(学校関係者など)も協力はするが、運営の主体にはならない。市町は避難者に必要な食料や物資を確認して供給したり、施設管理者は施設利用や環境改善を支援したりもするが、運営はあくまで利用者が主体で、自分たちでルールを定めて役割分担しながら運営する。このため平時から避難所の開設・運営を訓練し、「避難所運営ゲーム(HUG)」なども経験して、予期せぬ事態への対応力を養うことが大切になる。
 Q 市町職員や災害ボランティアは常駐するのか。
 A 市町や災害の規模によっても異なる。職員を被災者支援の拠点施設にのみ配置する市町もある。災害ボランティアも南海トラフ地震のような広域災害になるほど行き先が分散するため、支援を得にくくなる。

 ◇この物語は南海トラフ地震の幅広い発生パターンの一例を描いた架空のシナリオです。実際には全く異なる発生状況もあり得ます。
 ◇「東海さん一家の防災日記」の感想や、地域防災への意見などを募集します。お住まいの市町名、氏名またはペンネーム、年齢、連絡先を明記し、〒422―8670  (住所不要) 静岡新聞社編集局「東海さん一家の防災日記」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください。

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