テーマ : 富士市

平面と立体 「境」を超えて 美術家・ナガタトシヒロさん(富士宮市)【表現者たち】

 犬を描いた絵画の一角に画面から飛び出すように板木が貼られ、キャンバスの周囲を童話に出てきそうなかわいらしい姿だが、どこか恐ろしさも感じられるウサギや豚の人形が囲んでいる。立体と平面を両立させた制作スタイルを進める富士宮市の美術家ナガタトシヒロさん(55)は、絵と人形を組み合わせて物語性豊かな作品を志向する。

アトリエ内に所狭しと並ぶ制作物。立体と平面の制作物が折り重なる空間が作品というナガタトシヒロさん=富士宮市
アトリエ内に所狭しと並ぶ制作物。立体と平面の制作物が折り重なる空間が作品というナガタトシヒロさん=富士宮市
ロック音楽の影響を受けた絵画作品「Fluctuating Boundaries(ゆらめくきょうかいせん)」
ロック音楽の影響を受けた絵画作品「Fluctuating Boundaries(ゆらめくきょうかいせん)」
アトリエ内に所狭しと並ぶ制作物。立体と平面の制作物が折り重なる空間が作品というナガタトシヒロさん=富士宮市
ロック音楽の影響を受けた絵画作品「Fluctuating Boundaries(ゆらめくきょうかいせん)」

 1968年、富士市生まれ。高校時代に美術の道を歩み始めた。当初は油絵を描いていたが、やがて版画に興味を移し、日本大学芸術学部美術学科版画コースを卒業。十美展や浜松市美術館版画大賞展、伊豆美術祭で入賞するなどした後、2000年を境にペインティングと立体造形の組み合わせを模索し始めた。
 1960年代に活躍した米バンド「ザ・ベルベット・アンダーグラウンド」から影響を受けた。「ポップだけどノイジーでもある。実験的ともいえる音楽を聴き、美術をジャンル分けすることに疑念がわいた」。作品にバンドのボーカル、ルー・リードのソロ楽曲の歌詞を書き入れたこともある。英国のロックスター、デビッド・ボウイにも憧れた。作風を時代とともに変化させていく姿勢や、初期作「スペイス・オディティ」などに現れる宇宙的な雰囲気にも感銘を受けた。
 現在の創作のテーマに「境界線」を挙げる。富士宮の山林の木々を使って作る人形は一見おとぎ話に出てくるようだが、よく見れば手足が異様に長かったり目がうつろだったり。かわいいものと不気味なものの境を意識してデザインする。「例えば魚から見れば陸は死の世界。人間から見れば海は死の世界。その間の揺らめく波打ち際こそ創作が生まれる場だと思っている」と話す。
 美術家として変化を続けてきた。「いつか物語を絵本のような形でつづってみたい」。異なるジャンルへの挑戦にも意欲を見せた。
 (教育文化部・マコーリー碧水)

 個展「Fluctuating Boundaries(ゆらめくきょうかいせん)」は、17日まで富士宮市万野原新田の「RYU GALLERY」で開催中。

いい茶0

富士市の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞