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大自在(2月2日)文学の「地産地消」

 「もう、読んだ?」が、静岡県内の小説好きのあいさつになっている。宮島未奈さん(富士市生まれ)の「成瀬は信じた道をいく」と永井紗耶子さん(島田市生まれ)の「きらん風月」。昨年、静岡書店大賞、直木賞に選出された県勢作家2人が、同じタイミングで受賞第1作を出した。
 先週後半から書店に並ぶ。静岡市内の大規模店では、2冊が競うように平積みされていた。ベストセラー作家の“ホーム”として、売り場の力の入れようが伝わってきた。
 文芸や書店の現況は厳しい。出版科学研究所が1月25日に発表した出版指標では、紙の書籍の2023年推定販売金額は前年比4・7%減。全国の書店数は、ここ10年で3分の2になった。
 だが、暗いニュースばかりではない。東京・阿佐ケ谷で40年以上営業を続けた「書楽阿佐ケ谷店」は昨年11月に年明けの閉店を発表したが、その後「八重洲ブックセンター」が店舗を引き継ぐことになった。旧店名最終日の1月31日、書楽の公式SNSには感謝の言葉があふれた。「街の本屋さん」のかけがえのなさに改めて思い至った。
 23年は、県内に独立系書店が6店生まれたそうだ。その多くは異文化との混交を志向する。本とアート、本とコーヒー、本とビール―。一般社団法人トリナス(焼津市)の土肥潤也代表理事はこうした店が提供する価値を「本+α」と表現した(書籍「ブックフェスタしずおか」)。
 願わくは、各地の書店に幸多からんことを。県内出身作家がその一助とならんことを。これも一つの「地産地消」ではなかろうか。

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