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イナデイズ ブルーイング(長野県伊那市)山里の歴史や素材注ぐ のどかな風情 心ほぐす【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑪】

 静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙が地元のクラフトビールを取り上げる連載も11回目。西に中央アルプス、東に伊那山地や南アルプスが連なり、その真ん中を天竜川が貫くように流れる信州・伊那谷の「イナデイズ ブルーイング」(長野県伊那市)が今回の主役だ。醸造家の女性が、山里の歴史や文化、自然環境への思いを注ぐ。

ビールの発酵具合を確かめる冨成和枝さん=長野県伊那市の「イナデイズ ブルーイング」
ビールの発酵具合を確かめる冨成和枝さん=長野県伊那市の「イナデイズ ブルーイング」
ラベルは1缶ずつ手で貼る。手間暇をかけるのは小規模醸造所ならでは
ラベルは1缶ずつ手で貼る。手間暇をかけるのは小規模醸造所ならでは
伊那谷のアカマツを使った「森の座ペールエール」
伊那谷のアカマツを使った「森の座ペールエール」
長野県伊那市 イナデイズ ブルーイング
長野県伊那市 イナデイズ ブルーイング
ビールの発酵具合を確かめる冨成和枝さん=長野県伊那市の「イナデイズ ブルーイング」
ラベルは1缶ずつ手で貼る。手間暇をかけるのは小規模醸造所ならでは
伊那谷のアカマツを使った「森の座ペールエール」
長野県伊那市 イナデイズ ブルーイング


 夕方、タップルーム(パブ)の開店前に訪れたまな娘に、イナデイズ ブルーイング社長の冨成和枝さん(36)はシャボン玉を吹いてあげた。冨成さんは出身地の愛知県から伊那市西箕輪に移り住んで起業。昨年出産して“ママさんブルワー”になった。「女性として母親として悩みや大変さもあるけれど、楽しく仕事をする喜び、生き方を周りの人々と共有したい」と、自然体を貫く。
 伊那谷の風土や歴史を感じさせる商品がそろう。例えば「鹿塩ゴーゼ」は、静岡県境に位置する山深い大鹿村で温泉水を煮詰めてできる「山塩」と、峠を越えた木曽地方に伝わる乳酸発酵の漬物「すんき」を用いた。他にも地元産の米や果実を使ったり、街道名の「三州」「権兵衛」を商品名に入れたりして飲み手の関心をいざなう。「地域に根差して、出合った素材を生かしたい」と冨成さん。「より良い暮らしを醸成する」との理念を、自らのビールに注ぎ込む。
 伊那谷に思い入れ、造詣を深めたきっかけは、上伊那郡南箕輪村にキャンパスがある信州大農学部・大学院で学んだ20代にさかのぼる。2011年に卒業して愛知県内の食品メーカーに就職したものの、自然豊かな土地も、出会った人々も忘れ難かった。「一生をかける仕事」を求めるうちに、農産物を原料にできるクラフトビールに注目。同県の醸造所に転職して4年間の経験を積んだ後、7年ぶりに戻って開業した。
 選んだ場所は、かつて過ごしたキャンパス近く。田畑や段丘、山の景色が広がる。イナデイズの由来は、地名に「in a daze(ぼーっとする、酔う)」との英語を掛けた。のどかな風情の中でビールを介して語らい、心をほぐしてほしい-と願い、自社ビールや石窯ピザを味わえるタップルームを併設した。
 結婚は新型コロナウイルス流行下。それまで商品開発と仕込み、タップルームの営業まで冨成さん一人で切り盛りしていたが、夫で米国出身のネイサン・バンダレーさん(37)と話し合い、仕事でもパートナーに。スタッフも雇って4人態勢で、年間20種類の仕込みや店の営業をこなしている。
 醸造を始めて4年。タップルームは地元の若い人だけでなく、お年寄りも足を向けるよりどころになった。クラフトビール人気の高まりを追い風に、今後は醸造規模を広げ、新しい拠点づくりの構想を練る。(信濃毎日新聞社)

松を使用、心地よい刺激 「森の座ペールエール」
 松を使ったビール、と聞くと驚くかもしれない。口に含むと、清涼で、スパイスのような心地よい刺激と、土壌の香りが広がる。商品名の通り、森の中にたたずんでいるような感覚になる。
 「森の座」は、里山の整備や間伐材の活用を進める伊那市のNPO法人の名称。冨成さんは会員から、地域のアカマツ林で松枯れ被害が深刻になっていることを聞き、関心を向けた。地元ではアカマツ材をごく薄く削った昔ながらの経木[きょうぎ]で食品を包むといった取り組みも続く。身近な森林環境を皆とともに守りたい-と、2021年夏に発売した。原料に使う松葉や松ぼっくりは、森に足を運んで摘んでくる。経木を模したラベルは木のぬくもりが漂う。
     ◇
 イナデイズ ブルーイング 2018年、リンゴの加工所だった建物を生かして開業し、19年1月に自家醸造を始めた。併設のタップルームは、毎週月曜と第2・第4日曜を除いて原則営業。伊那市西箕輪8004の1。問い合わせはEメール<contact@inadazebrewing.com>へ。
 

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