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核心評論「プリゴジンの乱」 揺らぐプーチン体制 「第2幕」恐れる

 ロシアの民間軍事会社ワグネルの武装部隊が6月にモスクワに迫った反乱は、部隊が撤退し、首謀者プリゴジン氏は刑事訴追されずにベラルーシに出国するとの不可解な結末となった。実質23年に及ぶ政権の最大危機に直面し、プーチン大統領の強権体制は揺らいだ。軍・治安機関は様子見を決め込んで動かず、「体制崩壊」を恐れた一部側近らはモスクワを脱出した。政権は反乱「第2幕」を恐れ、軍の粛清や、批判的な極右愛国勢力の弾圧に乗り出した。
 戦車、重火器などで武装したワグネル部隊は、ウクライナ東部の拠点からロシアに進攻し、6月24日未明に南部の100万人都市ロストフナドヌーをあっさり占領。モスクワに向けて北上したが、正規軍、治安部隊との全面衝突を避けるため、同日夜に引き返した。
 プーチン氏は、モスクワの北西約380キロにあるワルダイの別邸に閉じこもっていたとの情報がある。側近のパトルシェフ安全保障会議書記らが反乱収束の指揮を執ったが、動かぬ大統領の無力ぶりに政権を支える治安機関、軍の指導部、財閥トップらは衝撃を受けたという。
 プーチン氏の最側近、実業家コワリチュク氏や、少年時代からの柔道仲間で富豪のロテンベルク氏のプライベートジェット機や閣僚専用機が次々とモスクワを離陸、エリート層の動揺を裏付けた。
 当初は「裏切り者を処罰する」と息巻いたプーチン氏は腰砕けとなり、プリゴジン氏とワグネル部隊は反乱の責任を問われずに放免された。同氏が政権に不都合な多くの情報を握っているからだとの見方が根強い。
 ロシア国民はプーチン氏の強権体制を「ロシアの安定」の見返りとして受け入れてきたが、同氏が踏み切ったウクライナ侵攻により国内情勢が悪化している現状を受け、今やプーチン氏こそが「不安定の根源」だとの認識が浸透しつつある。
 反乱後のプーチン氏を、1991年8月のソ連保守派クーデター失敗後のゴルバチョフ大統領になぞらえる見方がある。軍、治安部隊は動かずクーデターは阻止されたが、ゴルバチョフ氏は実権を失い、同年末のソ連崩壊で失脚した。米国、英国の情報機関は「プリゴジンの乱」がプーチン政権の脆弱さを暴いたと指摘している。
 プーチン政権は、反乱計画を知っていたとされる、ウクライナ侵攻ロシア軍のスロビキン副司令官を拘束。ショイグ国防相ら軍指導部を批判した部隊指揮官らを次々と解任した。また、極右愛国勢力の幅広い支持を受けるロシア軍元大佐の強硬派ストレルコフ氏を逮捕。プリゴジン氏に続く恐れのある「反乱分子」の排除を強めた。
 米メディアによると、反乱を受け、米政府は「プーチン後」を真剣に検討、特にロシアの核兵器の管理に懸念を強めている。プーチン氏は現在、治安機関、軍を掌握しており、直ちに政権が倒れることはないとみられている。ただ、ウクライナ戦争で今後ロシア軍が劣勢に陥れば、政権基盤が揺らぐ可能性はある。(共同通信編集委員 杉崎洋文)

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