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テーマ : 川根本町

遠い全線復旧 必須の支援、進まぬ議論【大井川鉄道 台風被災1年 レールの行方㊤】

 昨秋の台風15号が大井川鉄道に深刻な被害をもたらしてから1年。家山-千頭間で運休が続き、全線開通の見通しは立たないが、10月1日に家山-川根温泉笹間渡間2.9キロが再開する。支援が決まらぬ状況や地域の動きを追い、地方鉄道のこれからを考える。
ほとんど手つかずの状態の土砂流入現場=6月中旬、川根温泉笹間渡―地名間(大井川鉄道提供)
 「想像以上にひどい。トンネル間の線路は重機も入れそうにない」。昨年9月、県内を襲った台風15号で全線に土砂流入などの被害を受けた大井川鉄道。今年6月、被害が大きかった川根本町を中心に被災現場に入った経営企画室の山本豊福さん(58)は振り返った。幹線道路沿いからは見えない、厳しい復旧の道のりが待ち受けていた。
台風15号による主な被災箇所(不通区間)
 10月1日に延伸再開する川根温泉笹間渡駅を川根本町方面に進むと、すぐにほとんど手つかずの状態の土砂流入現場が広がる。下泉―田野口間は特に深刻で、大規模な土砂がレールをふさぐ。その先も被害は終点の千頭駅まで断続的に続く。運行再開には土砂の撤去だけでなく、再発防止工事も求められる。記憶に新しい6月の台風2号による被災箇所もあった。
 復旧費用は概算で約19億円とされ、新型コロナウイルス感染拡大以降、赤字が続く大鉄に自力で再建できる体力はない。沿線自治体の動きはどうか。島田市は本年度当初予算に金谷―家山間の復旧費用として1600万円を計上し、川根本町は10月から家山―千頭間の代行バス運行を町営に切り替えるが、全線復旧には県や国の支援に頼らざるを得ないのが現状だ。
 関係者によると、2025年3月の創立100周年までに、全線復旧を見込めないのが現実的な状況とみられる。
 県庁では大鉄の公共交通としてのあり方を協議する検討会が3月に初めて開催されたが、それ以降は開かれていない。議論の中では、家山―千頭間の代行バスについてほぼダイヤ通り運行し、乗客の積み残しも発生していない状況も説明された。
 「大井川鉄道全線復旧を支援する会」と面会した森貴志副知事も「正直なところ、交通手段としての代替措置は確保されている」と指摘した上で、「観光資源としての価値をどう捉えるか考えていきたい」と言及した。大鉄は定期外が輸送人員の7割、旅客収入の9割を占める。ここまで観光に特化した鉄道事業者は全国でもまれだ。
 2回目以降のあり方検討会が開催できていない理由として、県地域交通課は「詳細な復旧費用がまとまっていないため」としているが、公共交通機関としての役割を中心にした議論では前に進めない状況に陥っている。当初は年内に具体策を取りまとめる方針だったが、先送りは避けられそうにない。

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