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テーマ : 川根本町

“地域の足”役割岐路に 観光誘客「必要な鉄道」【大井川鉄道 台風被災1年 レールの行方㊥】

 川根本町の町民らが今春設立した「大井川鉄道全線復旧を支援する会」。活動で集まった署名は3万5千筆に上り、9月中旬に支援を求めて県庁に届けた。町民分としては全町民の約7割に当たる約4千筆を集めた。復旧に向けた機運が地元で高まりつつあるが、「住民負担が生じるなら不要」といった声も漏れる。

試運転で約1年ぶりに大井川を渡るSL。多くの沿線住民が誘客効果を実感している=9月下旬、島田市川根町
試運転で約1年ぶりに大井川を渡るSL。多くの沿線住民が誘客効果を実感している=9月下旬、島田市川根町

 「生活の足として鉄道の必要性を感じていない」。5月に開かれた同会の会合で参加者から出た意見だ。同会による駿河徳山駅の清掃活動に参加した高齢の町民からは「大鉄には高校生以来乗っていない」との声も上がった。それでも、川根路を走る蒸気機関車(SL)の誘客効果を多くの沿線住民が実感する。同会の山口捷彦代表(80)は「大鉄は全国的な知名度がある。千頭までSLが来て川根本町の観光が成り立つ」と強調する。
 家山―川根温泉笹間渡間の再開に合わせ、大鉄はダイヤ改正を実施する。SLを増発する一方、金谷―家山間で上下各9本あった普通電車は金谷―川根温泉笹間渡間でほぼ半減する。日中の普通電車の運行が約6時間空く時間帯も発生するが、大鉄は「利用実態に合わせた」と強調する。
 例えば、毎週金曜日の午後には、福用駅近くの福祉型障害児入所施設「駿遠学園」の生徒らが帰宅する際の利用を見込み、快速急行を新設した。柔軟な運行形態だが、裏を返せば、平日の普通電車は数えられるほど乗客数が少ない便が多いことを物語っている。大鉄の鈴木肇社長は「地域の足としての役割は終わりを迎えつつある。多くの沿線住民にとって、『乗らないが必要な鉄道』になっている」と認める。
 そもそも大鉄は1925年、大井川上流の電源開発と森林資源の輸送を目的に設立された。大井川本線は31年に全線開通し、高度成長期までは旅客、貨物輸送ともに発展したが、車の普及に伴い利用者は減少した。そこで、全国で先駆けて76年にSL運転を復活させた。いち早く観光鉄道として生き残りを図り、SLの利益で地域輸送を支えるスタイルを確立していった。しかし、コロナ禍に伴う人流抑制によって一変。その様式が成立しなくなる中で、台風15号が追い打ちを掛けた。
 そんな中、危機感を抱く社員は被災を逆手に取った企画や鉄道会社として安定経営の根幹となる“乗車”につなげる原点回帰策を打ち出し始めた。

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