養生の仙薬 香り、効能 可能性広がる【令和の静岡茶㉚/終章 次代への胎動②】
こはく色の液体は舌触りがなめらかで、ナッツのような芳香を放っていた―。創業100年の白形伝四郎商店(静岡市葵区)は、茶の種子を搾って作る「茶ノ実油 GOLD TEA OIL(ゴールド・ティー・オイル)」を2016年に売り出した。
健康増進効果のコエンザイムQ10やビタミンEを豊富に含み、当初は食用で販売した。肌に優しくべたつかない点が認められ、化粧品の材料にも用いられるようになった。用途は広がり、20年に繊維メーカーと共同でオイルを練り込んだ抗菌マスクを開発した。
茶の実は、生産者の高齢化などで管理できなくなった放棄茶園を活用し、閑散期の秋冬期に摘む。農家の収益確保と茶畑の景観維持につなげたい考えで、白形和之専務(53)は「お茶が体に良いと感じてくださる消費者は多く、開発意欲を支えている」と語る。
臨済宗を開いた栄西禅師は13世紀に「茶は養生の仙薬なり」で始まる「喫茶養生記」を著し、茶の効能を説いた。古くから健康効果が認められてきた茶は近年、主成分カテキンの抗ウイルス作用が再び注目されている。試験管レベルとはいえ、新型コロナウイルスを不活性化させた研究成果は、業界の明るいニュースとなった。
香水や染め物、建材など、茶が持つ緊張緩和などの機能性や色、香りなどに着目した商品は多岐にわたる。
静岡市駿河区の伝統工芸体験施設「駿府の工房 匠宿」で1月下旬、煎茶と薬草をブレンドした「ハーブボール」作りの体験会が開かれた。丸子産緑茶やヨモギ、川根本町産ユズなどを詰めた布袋を蒸して体に押し当てると、ほのかな香りが参加者の鼻をくすぐった。
企画したのは、都内在住で静岡茶を使ったスパのブランド「NACHARAL(ナチャラル)」を展開する林夏子さん(44)。美容液やフェイシャルマスクを開発し、茶葉とミカンを配合した入浴剤は富士スピードウェイホテル(小山町)のアメニティーに採用された。「癒やし効果がある薬草として、茶の可能性を発信していきたい」と意気込む。
茶の需要減退が指摘されるが、効用という側面に目を向けると販路拡大の可能性は一段と広がる。食べる、かぐ、触る。飲用以外で魅力が伝わった消費者に、リーフ茶にも興味を持ってもらう取り組みで、成長の好循環が期待できそうだ。