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使命感の一方 負担重く 保育士、幼稚園教諭アンケート結果概要【届かぬ声 子どもの現場は今】

 静岡新聞社は保育現場の実情を探るため、静岡県内の保育士や幼稚園教諭ら(元職を含む)を対象にしたアンケートを実施した。期間は3月中旬~4月上旬。牧之原市の認定こども園で起きた送迎バスの園児置き去り事件のほか、裾野市の私立保育園など県内外で明らかになった不適切とされる保育の受け止めも尋ねた。設問は業務の実態や待遇面などを含めた計28項目。保育士や幼稚園教諭らにオンラインで直接入力してもらう方法で324人から有効回答を得た。集計結果を紹介する。(「届かぬ声」取材班)

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どの園でも起こり得る photo03
 裾野市など県内外で相次いだ「不適切な保育」に対しては、8割超が「どの園でも起こり得る問題」と受け止めた。負担感の増大や保育者の資質など多様な要因が挙がり、一連の問題を自身が勤務する園に置き換えて課題を直視する傾向がみられた。
 「現場の負担増や待遇が改善されないことが影響している」とした人は217人に上り、「人手不足が問題の根底にある」が214人と同水準。自由意見も多く寄せられ、現場の窮状が浮き彫りになった。

 ■その他の意見
 「不適切な保育」に関する設問では、選択肢以外にも多くの自由意見が書き込まれ、回答者の思いや各職場の実情がにじんだ。園児への暴行が発生する土壌について「優しい人ばかりではない」「モラルの欠如」などと厳しい意見が上がった。一方で、仕事量の増大で心に余裕がなくなっていることに起因するとの見方から、同情を寄せる声も目立つ。
 否定的な意見は「保育者自身の意識の低さ」「性格も関係している。短気や言葉遣いが荒い人は無意識にやってしまう」など。認可保育所に勤務する40代の女性保育士は「『強い個人』がいる集団の中では、正義と悪は関係なく皆が前ならえで(不適切保育を)する可能性がある」と指摘した。
 個人の人間性ではなく、職場環境や業界全体の課題と受け止める意見は多数あった。県東部の女性保育士は「配置基準に余裕がなく常にギリギリの状態」と危機感をあらわにした。県中部の40代保育士は「現場の閉塞(へいそく)感。クラスごとの時間が多く他者の目が届きにくい」と問題視する。
 認可保育所で働くベテラン職員からは「問題の防止や技能向上のための研修機会が足りない」との意見もあった。

園児の成長 大きな喜び
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 保育や幼児教育の従事者のやりがいは「常に感じている」と「ある程度感じている」を合わせると302人で、全体の93.2%と大半を占めた。職場環境などに不満を抱えながらも、高いモチベーションを維持して保育に当たっている実態が裏付けられた。
 やりがいを感じる場面は「園児の成長を感じる時」が最も多かった。「保護者から信頼されていると感じる時」も同様に大きな励みになっている。いずれも「一つの仕事をやり遂げた時」など自身の成長に関連する回答を大きく上回った。

バス置き去りは「特異」
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 送迎の園児をバス内に置き去りにする事態が勤務先の園でも起こり得るとした回答は、バス保有園への勤務経験がある51人のうち9人(17.6%)にとどまった。8割以上が、牧之原市での園児置き去り事件を特異な事例と受け止めていることがうかがえる。
 勤務先でも起こる可能性があるとした理由は「人為的ミスは防ぐことができないから」が最多。「安全な運行に必要な人員が確保できないから」「丁寧な保育をする環境が乏しいから」が同数で並び、人手不足など構造的な問題が浮かんだ。

人手不足 諸問題の根源
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 保育者が考える重大事故の背景にある要因はさまざまだ。回答で際立ったのは「保育者の人手不足」で、287人が指摘した。人手不足が多忙化やコミュニケーション不足など諸問題の根源とみる向きもある。
 「保育に直接関係のない事務作業の増加」も171人と多かった。保護者対応や行事の拡充などが保育者の業務を圧迫しているとみられる。「リスクを予測する保育者の技能・知識低下」を挙げた人は128人で、40代以上のベテランからの回答が目立った。

解決へ「早道は賃上げ」
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 賃金に対する満足度は「満足していない」と「あまり満足していない」の合計が7割超の234人に上った。人手不足や感染症対策の強化などに伴う負担増が待遇面の改善につながっていないことが、大きな不満要因になっている。
 自由意見でも、低賃金への意見が目立った。「命を守る責任の重さに対して給料の低さはモチベーションを下げてしまう」「問題解決の早道は賃上げをして潜在保育士を現場に戻すこと」など切実な声が多く寄せられた。

園外活動 特に神経使う
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 現場では散歩など敷地外の活動での安全管理にとりわけ神経を使っている。安全な保育を実現できない恐れがある場面を尋ねた設問(複数回答)では「散歩や遠足などの園外活動」が202人で最多。「災害などの非常時」を挙げた人も174人と目立った。
 「朝の登園時」は160人。プールでの水遊びや園内(屋内)での遊びの中に危険が潜んでいるとみる人は150人前後で、日常のさまざまな場面で心を配っている実態が浮かぶ。

ライブカメラは否定的
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 保護者らが園内の様子を見ることができるライブカメラは、不適切保育を防ぐ手段と位置付けられている。設置の賛否について「反対」が147人と全体の45.4%を占めた。「賛成」は52人で反対の3分の1程度だった。
 保護者の安心感が増す一方で、保育者にとってはカメラに見張られているイメージから、保育活動の萎縮につながりかねないとの懸念がある。「分からない」としたのは125人と4割近くだった。

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