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園児の重大事故 身近な場に潜む危険 「ヒヤリ・ハット」経験7割【届かぬ声 子どもの現場は今⑩/第2章 保育者の悲鳴~静岡新聞社調査から~③】

 ずさんな運営で3歳の河本千奈ちゃんが犠牲になった牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」での送迎バス置き去り事件。その数日前、県内の別の保育施設でも、園児を送迎バスから降ろし忘れる出来事が起きていた。

園児を降ろし忘れる出来事があった送迎バス。すぐに気付き大事には至らなかった=4月下旬、県内
園児を降ろし忘れる出来事があった送迎バス。すぐに気付き大事には至らなかった=4月下旬、県内
勤務先の施設(元施設)で重大事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」を見たり、経験したりしたことがありますか
勤務先の施設(元施設)で重大事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」を見たり、経験したりしたことがありますか
園児を降ろし忘れる出来事があった送迎バス。すぐに気付き大事には至らなかった=4月下旬、県内
勤務先の施設(元施設)で重大事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」を見たり、経験したりしたことがありますか

 2022年8月下旬、朝の登園時だった。送迎バスの運転手が子どもたちを降ろした後、隣に停車していた別のバス内に何げなく目を向けた。最前列の座席で女児が寝息を立てていた。車内にはほかに誰もいない。
 慌てて近くにいたそのバスの添乗員に知らせた。2分ほどの出来事。大事には至らなかった。座席の背もたれに隠れ、バス中央付近にいた添乗員の死角になったとみられる。添乗員は子どもたちを職員に引き渡した後、座席を消毒する決まりになっていて、そのタイミングで見つけられた可能性もある。
 同施設は21年7月に福岡県の保育園で発生した送迎バス置き去り死事故を受け、送迎バス内のチェック体制を強化したばかりだった。「肝を冷やした」。園長はそう言って表情をこわばらせた。
 静岡新聞社が行った保育者アンケートで、重大事故(死亡事故や加療1カ月以上のけが)につながりかねない「ヒヤリ・ハット」を見たり、経験したりしたことがあるか尋ねたところ、回答者324人のうち、70・1%に上る227人が「ある」と答えた。
 保育現場は、さまざまな場面に危険が潜み、保育者は気が休まらない状況にあることが浮かぶ。国は3月、牧之原市での置き去り事件を受け、ヒヤリ・ハットの実態調査を初めて行った。各園や関係者で事例を収集し共有することを推奨した報告書をまとめた。
 だが、認可保育園や認定こども園は、最長1日11時間子どもを預からなければならない。保育中は職員が集まって研修や会議をすることは難しい。アンケートに回答を寄せた保育者からは「トイレに行く時間さえ取れない」という悲痛な声が上がる。
 さらに近年、保育現場では、集団行動がどうしても苦手な子や心身面の発達に遅れがある子の増加が課題になっている。静岡市立の保育施設に勤める30代の女性保育士は新人時代、受け持っていた年中児が保育中に一人で歩いて帰宅したことがあった。保護者からの連絡で発覚した。県西部の認定こども園に勤務する20代の保育士は、散歩先に年少児1人を置いて園に戻ってしまった。戻る直前に点呼を取った時は姿を確認したが、一瞬のすきにいなくなり、数分後、近くの小学校で見つかった。
 静岡市内の私立保育園の園長は「以前より気をつけなければいけないことが増えている」と本音を吐露する。

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