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突風被害1年半-崩れた蔵から「奇跡のしょうゆ」 牧之原の老舗・ハチマルが自社醸造復活

 竜巻とみられる突風に見舞われた夜が明けた。「うそだろ…」。2021年5月、老舗しょうゆ蔵の社長鈴木義丸さん(46)は眼前に広がるがれきまみれの惨状にそれきり絶句した。牧之原市須々木、屋号は「ハチマル」。創業190年余の歴史が途絶えることも覚悟した。しかし、奇跡は起きた。倒壊した蔵のがれきの撤去を進める中で天井付近の配管から見つかった「もろみ」。鈴木社長や従業員の胸に、再起への思いが奮い立った。被災からおよそ1年半。自社醸造の復活、新商品の発売にこぎ着けた。
6月には熟成したもろみから丁寧にしょうゆを絞り出す作業が行われた=牧之原市須々木
 突風はまさに壊滅的な被害をもたらした。作業場兼倉庫として使われていた蔵3棟が全壊し、2棟が半壊した。保管してあった商品や材料のほとんどが廃棄となった。1828(文政11)年創業。事業の効率化を考え、およそ半世紀停止していた自社蔵での単独醸造の復活を決意した矢先の出来事だった。
奇跡のもろみを使った新商品を手に「挑戦を続けたい」と意気込む鈴木義丸社長=牧之原市須々木
 希望の“光”となったもろみは、自社蔵で醸造していた45年ほど前のものと推定された。まさか酵母菌が生きているとは―。信じられなかった。「ここまで来たら後戻りはしない」。そう心に決めた鈴木社長は蔵の再建に乗り出し、被災から10カ月後の22年3月、しょうゆ造りを再開した。醸造には手間を惜しまず、伝統的な木おけ天然醸造を採用した。6月には熟成したもろみの圧搾を行い、火入れに続き、ろ過作業を終えてようやく完成した。
 新商品は自然な甘さと濃厚な味わいが特徴だ。原材料には丹波の黒大豆や沖縄の塩、富士山の水、北海道の小麦を使用するなど素材にこだわりを詰め込んだ。商品名の「晴レノ日ノ醤油」には「食卓の笑顔と幸せに貢献する」という社の理念に基づき、特別な日のような食卓を演出したいとの願いを込めた。
 商品は現在、応援購入サイト「マクアケ」で先行販売され、来年3月をめどに同社の専用サイトで一般販売を予定している。鈴木社長は「困難な道のりだったが、まずは商品として形になったことが何より。このしょうゆを多くの人に知ってもらいたいし、日々挑戦を続けたい」と前を見据える。
 (榛原支局・足立健太郎)

 <メモ>2021年5月1日午後6時半ごろ、牧之原市の布引原、勝田・切山、坂部、須々木の計4地区で竜巻とみられる突風が発生。市によると、住宅8棟が半壊、94棟が一部損壊したほか、倉庫や工場などの非住宅の被害は計46棟に上った。被害が大きかった布引原地区は風速65メートルの風が吹いたと推定され、静岡地方気象台は「竜巻の可能性が高い」とした。

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