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必要だった「第三者」 当事者同士の解決に限界【届かぬ声 子どもの現場は今⑯/第3章 言えない環境 県東部の小規模保育所㊦】

 「私たちの声はこの人には届かないと思った。怒鳴り返されて終わるから」

小規模保育所を退職した元職員。外部への通報は「勇気が必要だった」と話す
小規模保育所を退職した元職員。外部への通報は「勇気が必要だった」と話す

 静岡県東部の小規模認可保育所の元職員は、園長の高圧的な言動や行為を地元自治体と労働基準監督署に通報した理由を語った。
 自治体と労基署は通報を受け、運営法人の役員らに改善を指導。園長が職員に謝罪し、他の施設に移ることで一応の解決をみた。
 元園長は取材に対し、「相手の言い分も分かる。私ははっきり物事を言ってしまうタイプだから」と、落ち着いた口調で自身の言動を省みた。「何でも話せるようにしてきたつもりだが、職員にとっては言いづらかったのかもしれない」
 元園長は長年小学校で教員として勤め、退職後に認可外保育所を開いた。教員生活の中で未就学児の教育や保育の重要性を感じた故の一念発起だった。しかしある日、保育士との間で金銭にまつわるトラブルがあった。以来、お金の管理、特に支出により目を光らせるようになったという。労働者の多様な働き方を尊重する考え方は「なかなか理解できず」、正規職員だけでなくパート職員にも有休を付与する義務があることも解せなかったと話す。
 カラオケ機器を保育室に置き、通信料を園の運営費から支払っていたことについては「夜、誰もいないときに友達を入れた」と私的な使用を認め、自治体の指導を受けて通信料の全額約30万円を返金したことも明かした。当初は園児と一緒に歌を楽しみたいとの思いがあったというが、実際に保育の場面で使用したのは「2、3回」だった。
 地元の自治体は同保育所に年1回の定期監査を行っていたが、一連の問題は職員からの通報で初めて把握したという。担当課長は「不適切保育の件も含め、相談窓口はあってしかるべきと感じた」と話した。
 通報に踏み切った同保育所の元職員は、相談体制の充実だけでなく、第三者の目を積極的に現場に入れることが重要と訴える。
 「経営者をしっかり指導できる人がいなければ、経営者のやりたい放題になってしまうのではないか。日常的に第三者が入る体制が整っていれば、違う結果になっていたかもしれない」
 園内で解決する道筋が見えず、外部に助けを求めたのは「勇気が必要だった」という。多くの保育者は園の安全管理や保育方針、労働条件などに疑問や不安があっても、言えない環境の中で抱え込んでいる。
 現場と経営側の風通しの悪さは、送迎バスへの園児置き去り事件が起きた牧之原市の認定こども園にもあったと指摘する声がある。

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