テーマ : 牧之原市

業務効率化、本質欠く バス負担軽減も懸念残る/川崎幼稚園㊦【届かぬ声 子どもの現場は今⑲/第3章 言えない環境】

 「管理職で話し合ったことや検討したことなどは職員に伝え、業務の改善を図ってきました」

事件から間もなく9カ月。駐車場には現在、事件とは無関係のバスだけが置かれている=5月下旬、牧之原市静波
事件から間もなく9カ月。駐車場には現在、事件とは無関係のバスだけが置かれている=5月下旬、牧之原市静波

 牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」を運営する榛原学園は5月下旬、静岡新聞社の取材に対し、組織として風通しを良くするよう努めてきたと書面で回答した。具体例に挙げたのは、2015年のこども園化を契機に始めた送迎バスの乗務員の外部委託。「職員の負担軽減が主な理由」と強調した。
 ただ、当時は安全管理の観点から異論もあったという。園児が走行中に席を立つなど落ち着かない行動を取った時に対処できるのか。保護者の連絡事項は確実に職員に伝達されるのか。そもそも園児の命を預かる空間を外部の人材に託してもいいのか―。懸念は解消されないままだった。
 職員の発案で効率化された業務はバスの乗務員の他にもあった。しかし、業務改善には本来、本質が問われる。関係者は「仕事の改善も大事だが、何が必要で、何をなくしていいかを(当時の)園長は本当に分かっていたのか」と疑問を投げかける。
 21年7月、福岡県中間市の私立保育園で男児が送迎バスに約9時間置き去りにされ、熱中症で亡くなった。国は乗降時の人数確認などを全国の教育・保育施設に求めたが、川崎幼稚園が乗務員らに改めて注意喚起することはなかったとされる。園全体で出欠確認を厳格化することもなく、自分たちと同じ送迎バスを保有する保育現場の悲劇にも上層部の反応は鈍かった。
     ◇ 
 約1年後の22年9月5日。運転手の休みに伴い、代わりに園長が通称「きりんバス」のハンドルを握ることになった。普段は園児がバスから降りた後、運転手が車内の確認をしていた。この日は一人で座席で声をかけられるのを待っていた河本千奈ちゃん=当時(3)=を乗せたまま、バスは施錠された。
 以前は運転手のローテーションに入っていた園長だが、近年は代役の機会も少なくなっていた。園バスの運転手の仕事は決して運転だけではない-。そんな本質を周りから園長に再確認する声がかかることはなかった。臨時で業務を代行する人的ミスが起きやすい場面で、園長の注意力は高まらなかった。クラス担任と副担任は、いるはずの千奈ちゃんがいない状況に気付きながら、保護者や同僚に確認をしなかった。
 風通しを良くしてきたはずの組織は、千奈ちゃんの命を救えたかもしれない複数のチェックポイントをこうして見逃した。

ご意見お寄せください 
 宛先は〒422―8670(住所不要)静岡新聞社編集局「『届かぬ声』取材班」、ファクス<054(284)9348>、メールshakaibu@shizuokaonline.com

牧之原市の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞