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長期化する原因解明 「安全」の組織的不備次々【届かぬ声 子どもの現場は今 牧之原バス置き去り1年㊥】

 8月下旬、牧之原市総合健康福祉センター(同市静波)の明かりは午後9時の閉館時間を過ぎても消えることはなかった。「また宿題が出た。本当ならきょう結論が出るはずだったが…」。およそ3時間半の協議を終えて駐車場に出てきた検証委員会の委員は、険しい表情でため息をついた。

検証委員会の協議が行われた牧之原市総合健康福祉センター。午後9時を過ぎても明かりは消えなかった=8月下旬、同市静波
検証委員会の協議が行われた牧之原市総合健康福祉センター。午後9時を過ぎても明かりは消えなかった=8月下旬、同市静波

 送迎バスへの置き去り事件の原因や再発防止策を検討する目的で2月に設置された同委員会。報告書の完成は、当初目標としていた9月より遅れることが確実となった。
 委員が口にする“宿題”は安全管理の組織的な不備の検証。関係者によると、事件を起こした認定こども園「川崎幼稚園」の関係者にヒアリングを行う度、あらためて検証すべき点が次々明らかになったという。2021年7月に福岡県中間市で当時5歳の男児が保育園の送迎バスに置き去りにされて亡くなった事件を受け、国が全国の保育施設に再発防止を呼びかけた時でさえ、川崎幼稚園では注意を促されることはなかったという乗務員の証言がある。「現場の安全は個人に丸投げされていた」と委員の一人は厳しく指摘する。検証委は事件前の園の組織体制について問題点をさらに洗い出し、子どもの安全を守る環境が現体制の中で適切に機能しているかなど、組織の是非にまで踏み込んだ提言についても協議していくとみられる。
 わずか1年前の悲劇が再び繰り返された事態を重く捉えているのは事件捜査にも共通する。県警は昨年12月、本来すべきだった確認作業を怠ったとして、当日バスを運転していた前理事長兼園長ら4人を業務上過失致死の疑いで静岡地検に書類送致した。地検関係者は4人の過失などを判断する上で、21年の福岡の事件は「必要不可欠な要因」との認識を示す。
 業務上過失致死罪の成立要件の一つに、危険性を事前に予想できたとする「予見可能性」がある。炎天下で降車時に車内の確認を怠れば、最悪の場合取り残された園児の命が失われる-との危険性は1年前に露呈されたばかりだった。地検は4人の予見可能性を慎重に調べているとみられるが、「まだ処分を出せる状況ではない」(関係者)。送検から約9カ月が経過している現状については「少し時間がかかっている」と硬い表情を浮かべる。
 事件解明の長期化は、安全に対する事件前の責任がいかに曖昧(あいまい)だったかを物語っている。
 (「届かぬ声」取材班)

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