テーマ : 牧之原市

突き詰めた「注意義務」 規範と責任、検討に1年【届かぬ声/牧之原バス置き去り在宅起訴 ㊦地検の判断】

 「園全体としてルールがない中で、個人にどこまで注意義務を課すことができるか。この事件はそれが問われている」。静岡地検が業務上過失致死罪で牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の増田立義前園長(74)=同市=ら2人を在宅起訴する約1カ月前の10月中旬、捜査関係者は立件の焦点をそう語った。
川崎幼稚園
 事件直後に県と市が行った特別監査で、同園では送迎バスの運行に係る職員の役割が不明確で、園児の登降園管理も徹底されていなかったことが明らかになった。こうした組織的な不備を生じさせた上、事件当日は自ら送迎バスを運転し、河本千奈ちゃん=当時(3)=を車内に取り残した増田前園長の刑事責任は不可避と言えた。地検が特に慎重に検討したのは増田前園長とともに書類送検された他の3人の過失の有無や程度の判断だった。
検察官が認定した両被告の過失(起訴状を基に作成)
 書類送検から約1年。地検は起訴状に増田前園長と元クラス担任(48)の名前を記した。千奈ちゃんの置き去りに直接結び付いた増田前園長の不注意に加え、園内の連絡不徹底にもメスを入れた。
 千奈ちゃんは2022年4月の入園以降、風邪をひいて休むことが複数回あったが、母親は事前連絡を一度も欠かさず、遅刻もなかった。同じクラスの他の園児も事前の連絡なしに欠席をすることはなかったという。事件当日に千奈ちゃんが“無断欠席”状態になっていたことは普段と明らかに異なる状況だった。朝の会や身体測定、給食の時間など、不在を認識する機会は何度もあったが、元担任は確認に動かなかった。
 事前に連絡がなく出欠席が不明確な園児に対する確認について、当時の園内に統一したルールはなかったとされる。しかし、自分のクラスの園児の所在を把握することは、たとえルール化はされていなくても幼稚園教諭が果たすべき注意義務だったと地検は結論付けた。「幼稚園の先生であれば、あのケースは姿が見えない園児の確認をすべきという規範を私たちは立ててきた」。ある地検関係者はそう明かした。
 ・ ・ ・
 起訴されたのは結果的に前園長と元担任だけだが、一方で再発防止に何が必要かを社会全体で考えていくことも欠かせない―と捜査関係者や保育関係者は口をそろえる。24日、静岡地検の奥田洋平次席検事は2人の在宅起訴について淡々と説明した後、捜査機関としても心を痛めてきたことをのぞかせた。「非常に痛ましい事件。誰かの大きな過ちがなければ起こりえなかった」。幼い命を預かる責任の重さは今後、法廷で問われることになる。
 (「届かぬ声」取材班)

牧之原市の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞