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社説(4月11日)日銀植田総裁就任 好循環の実現へ全力を

 日銀総裁を歴代最長の10年間にわたって務めた黒田東彦氏が退任し、経済学者出身の植田和男氏(牧之原市出身)が就任した。
 黒田氏は「異次元」と呼ばれる大規模金融緩和を断行し就任当時の安倍晋三政権の看板経済政策「アベノミクス」の象徴となる円安株高を演出した。しかし、2%の安定的な物価上昇という目標は未達のままで、最近では物価高騰の中で副作用が目立つようになり、市場の不信も招いた。
 植田新総裁には、物価目標の達成とそれに見合うペースで賃金が上がる好循環の実現が要求される。そして最大の課題が、さまざまな面でひずみが現れている大規模緩和からの脱却だ。中央銀行機能の正常化に向けた取り組みも着実に進めなくてはならない。丁寧な説明も必要だ。
 日本経済はまだ新型コロナウイルス禍からの回復途上にあり、拙速な路線の修正はかえって混乱を招く恐れがあると指摘されている。実体経済や金融市場の動向などを見極め、それに応じた政策運営が大切になる。大規模緩和がもたらした光と影も改めて見つめ直す必要もあるだろう。
 黒田氏は2013年4月、「2%の物価上昇目標を2年で達成する」と大規模緩和策を決定した。企業の投資活発化を狙い、短期金利だけでなく、国債の大量購入によって長期金利も低く抑え込んだ。
 上場投資信託(ETF)なども大量に買い入れ、株式や不動産など資産価格の上昇も重視した。借入金利の軽減に加え、株や不動産の価値上昇は企業を潤した。超低金利策は円安を誘発し、輸出企業は為替差益で潤った。女性や高齢者を中心に雇用も増えた。
 ところが、企業の利益拡大は働く人々の所得増にはつながらなかった。雇用が増えても非正規のままでは所得は伸びない。株価上昇は株を保有する富裕層に恩恵をもたらしたが持たない庶民は取り残された。物価高騰に悩む米欧が利上げを急ぐ中でも日銀はかたくなに超低金利策を維持。「悪い円安」を加速させて物価高騰に拍車をかけた。
 日銀が国債を大量に引き受けることで政府の財政規律を緩ませた。政府をかつてないほどの借金漬けにした上に、日銀の独立性も疑問視されている。大量購入したETFは短期間で処理できないほどに膨らんだ。にもかかわらず経済成長率も実質賃金もいまだに低迷したままだ。
 この10年で金融政策だけでは物価と賃金の上昇という好循環は生み出せないということは明白になった。十分な成長戦略を構築できず金融政策と財政出動に頼った政府には反省を求めたい。日銀と政府が互いの役割を果たしながら連携することが重要だ。

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