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大自在(11月18日)敦煌

 「敦煌と聞いてすぐに何かのイメージが思い浮かぶ人は、日中関係の幸せな時代を知る人だ」(榎本泰子著「『敦煌』と日本人」)。当欄筆者はその1人。文学シンポジウム「井上靖と敦煌」の開催を知り、会場の伊豆市湯ケ島に先日足を運んだ。
 中国西域を舞台にした歴史小説「敦煌」は、湯ケ島で少年期を過ごした井上靖の代表作。伊豆市と現地の敦煌市をオンラインで結び、パネリストは文豪のエピソードやシルクロード都市の様子を語り合った。
 小説発表の1959年当時、敦煌は辺土だったが、現在は年間1500万人が訪れる観光地という。生涯27回訪中した井上靖が、敦煌を初めて訪れたのは小説発表から約20年後の78年。現地を見ずして千年前の国々の興亡や人間ドラマを紡ぎ出した創造力に改めて感服する。
 78年は日中平和友好条約が締結された年である。45周年の今、両国の関係は友好とは言いがたい。榎本氏は同著で、日本人の中国に対するイメージは世代によって異なると指摘する。2000年以降悪化した両国関係の中で育った世代にとっては、大陸へのロマンは過去のものになりつつあるかもしれない。
 そうだとしても、郷土ゆかりの文豪が積み重ねた交流の価値は全く変わらない。戦後、民間による熱心な日中交流がなければ、国交正常化や続く経済発展は今よりさらに遠いものだっただろう。
 きのう、1年ぶりに日中首脳会談が開かれた。水産物輸入停止をはじめ山積する懸案の進展はなかなか難しいようだ。関係改善に向け民の力でできることはないか。

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