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テーマ : 焼津市

通級指導教室 静岡県内高まるニーズ 教育現場工夫細やか

 小中学校で、発達に特性のある子らが通常学級に在籍しながら週に1、2回、クラスを離れてコミュニケーション方法などを学ぶ「通級指導教室」の利用者が、全国的に増えている。ニーズが年々高まるが、静岡県内の現場からは「そもそも通級指導教室自体が知られていない」という指摘もある。

静岡型小中一貫教育を契機に利用を円滑にしようと、大里中が学区内の小学校教員に向けて行った通級指導教室の説明会=5月、静岡市駿河区
静岡型小中一貫教育を契機に利用を円滑にしようと、大里中が学区内の小学校教員に向けて行った通級指導教室の説明会=5月、静岡市駿河区
通級指導の必要性を上げる夏目徹也さん=焼津市下小田
通級指導の必要性を上げる夏目徹也さん=焼津市下小田
静岡型小中一貫教育を契機に利用を円滑にしようと、大里中が学区内の小学校教員に向けて行った通級指導教室の説明会=5月、静岡市駿河区
通級指導の必要性を上げる夏目徹也さん=焼津市下小田

 

助けてもらい成功体験

 「今日は、この前やった校外活動のことを話そうかな」。川根本町内の小学校で、男子児童が楽しげに教員に思い出を語り始めた。同町は巡回型の通級指導を採用していて、対象児童は週に1回、自校を訪ねてくる担当教員から指導を受けている。
 会話が終わると、教員が簡潔な文章を組み立て、児童は書き写して伝え方を確認した。ドリルに取り組んだ際には教員は解きにくい問題でヒントを求めるよう誘ったり、終業時刻になると手を止めて片付けをするよう促したりした。児童に「助けを求めれば成功できる」と実感を与える狙いや、時間が来たら気持ちを切り替える習慣を持つよう、さまざまな場面で指導側の工夫がうかがえた。

 

通級教室の利用者増加 指導は個別と集団の2形態

 通級指導は1993年度に制度化され、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、特性により一斉指導で困り感が生じる児童生徒を受け入れる。医師の診断の要、不要は市町により異なる。多くの市町が設置校を展開し、その学校の児童生徒は「自校通級」として、指定エリア内の他校の児童生徒は「他校通級」として利用する。文部科学省によると、この10年で通級指導教室の利用者は2・5倍になった。
 形態は個別指導が多いが、藤枝市の岡部小では集団指導を行っている。児童は3、4人規模で机を並べ、活動の順番を相談して決めたり、最後に他者をたたえる場面を設けたりと、集団生活のスキルを伸ばしている。

 

「誰もが利用しやすい環境づくり」課題

 自校通級なら授業を1時間だけ抜けて、終了後自分のクラスに戻ればよいが、他校通級だと保護者の送迎が必要になったり、学校を離れる時間が長くなったりして利用のハードルは高くなる。子どもが無理なく、専門的な指導を受けられるよう、文科省は自校通級の拡充や、指導教員不足の現状を踏まえた巡回指導の推進を推奨し、6月に現状を踏まえた支援の在り方を検討する有識者会議を発足させた。小学校で巡回指導を行う焼津市の元教員夏目徹也さんは「児童生徒が通いにくい市町があるのが実情だ。行政は、誰もが利用しやすい環境を整えてほしい」と求める。
 中学生だと思春期に入ることもあり、小学校で通級指導教室を利用したことのない生徒は敬遠しがちだという。今春から静岡型小中一貫教育が始まった静岡市で、駿河区内の中学生を対象に通級指導教室を設ける大里中は、入学後の利用を円滑にするため、5月、校区内の小学校の6年を担当する教諭を招いて、同校での通級指導教室を紹介する会合を設けた。不登校の原因となる「中1ギャップ」へのアプローチや進路決定時の支援といったメリットと、対象になりそうな児童の保護者に声を掛けてほしい時期などを改めて伝えた。「共にスクラムを組み、本気で取り組んでいきましょう」と、訴えた。

 

発達支援教室開設 夏目徹也さんに聞く

 元小学校教員で長年通級指導に関わり、退職後の今春、焼津市内に発達支援教室を開設するとともに、教員や保育士向けの研修などを行っている夏目徹也さん(2021年度はごろも教育奨励賞受賞)に聞いた。

 ―子や保護者に通級指導教室についてどう説明しているか。
 「子どもには、学校生活で何かに困った時に自分の心情を素直に話せる場所だよ、うまくいくために一緒に考え、弱いところを伸ばそうと伝えている。保護者に対しては、今までは学校と保護者の2者で頑張ってきたけれど、今後は通級指導教室など多くの大人でチームを作ってこの子を支援していきましょう、と話す。保護者の子育ての苦労は非常に大きく、必ずねぎらうようにする」
 ―授業での子ども自身の困り感はどのように表れるか。
 「教員はこれまでの学習内容を土台に新しい知見を積み上げていく授業を行う。例えば先生が算数で割られる数と割る数の関係をもとに次の学びにつなげる場合、教員はさらっと『割られる数が』と言うだろうが、子どもはそこから分からない。学習用語は使ってこそ身につくので教員はどんどん活用するのは当然だが、本人からすると苦しい。対人関係では物事を順序立てて受け止められないことで苦しくなることが多いと感じる」
 ―小中で連携する必要性をどう考えるか。
 「中学に入ると教員が教科担任制になったり、上級生から下級生になったりといった環境の変化と、思春期に入るという心の変化があり、特性のある子は特に戸惑うのでは。生徒自身が周囲の目に対する意識が強くなるので『特別な教室に通うことを知られたくない』と思う可能性もある。小学校の先生はそうした変化を見据えて、卒業前に通級指導教室を利用することのメリットをしっかり伝えてほしい。小学校の時に通級を利用していた子は保護者との信頼関係ができるので中学校につなげやすく、小学校での活用もより進むと良い」
 ―通級指導でどのような支援をすることが望ましいか。
 「中学校に入るとすぐ受験など次の進路の検討が始まる。通常なら成績が基準になるだろうが、特性のある子にとっては志望校がどのような支援をするかといった情報も必要だ。中学校の通級担当は熟知しているだろうから、利用のメリットは大きいはず。近年、受験での合理的配慮が認められつつある。事前申請には学校での支援実績が必要だ。大学受験では高校の、高校受験では中学での支援実績、ということ。中学生から始めることのハードルを考えた時、小学校での通級指導を利用しておくことは次に進むために重要だ。社会的な理解も欠かせない」


 

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