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テーマ : 焼津市

若者が意見言える社会に 菊川で「サミット」 参画の場拡大模索、同じ目線で話し合い【NEXTラボ】

 4月のこども家庭庁発足と同時に施行された「こども基本法」は、子どもが意見を言ったり、社会的活動に参画したりする機会の確保を基本理念に掲げている。少子化が加速し、社会の中で子どもや若者はマイノリティー(少数派)だ。未来を担う子どもの思いを社会に反映するには、大人の側はどうしたらいいだろうか。
イベントで実施したいことを付箋に書き、机に広げた紙に貼る生徒ら=11月下旬、静岡市葵区の静岡中央高
 11月中旬に菊川市で開かれた「わかもののまちサミット」。子どもや若者の社会参画の在り方を探ることを狙いに、焼津市のNPO法人わかもののまちが主催した。県内を中心に関東、北陸、関西地方から学生や若者支援団体、行政職員約200人が参加し、各地の活動を共有した。
 議論されたのは子どもや若者の社会参画の場を広げること。若者の意見を聞く仕組みというと、子どもが当局側に質問する「子ども議会」が注目されることが多いが、こうしたイベントに参加する子は限定的だとして「参加できない子や子ども議会で議題になるテーマ以外に意見を言いたい子もいるはず」「家庭や学校、地域などさまざまな場面で子どもの声に耳を傾ける必要がある」などの声が上がった。
 参加団体の一つ、NPO法人しずおか共育ネット(静岡市)は高校校内での「居場所カフェ」の運営に生徒の参画を促し、意見を引き出している。静岡中央高(同市葵区)で週に1回開く「きゃりこみゅカフェ」は、同校定時制や通信制の生徒が同NPOの職員や大学生らと交流する場。11月末はおでんを味わったり、計画中のクリスマス会の内容を話し合ったりした。
 季節ごとに行うイベントの内容は生徒が決める。机に大きな紙を広げ、「映画を見る」「ピザを食べる」などと生徒それぞれがクリスマス会で楽しみたいことを付箋に書いて貼っていった。カフェの常連山口響輝さん(17)は「普段授業で意見を言う場はなかなかない。カフェではいろいろな人の意見を聞けるし、みんなフラットなのがいい」と話す。
 一見、生徒が希望を述べるというよくある光景だが、同NPO代表理事の井上美千子さん(49)が意識しているのは子どもの権利を尊重し、生徒のありのままを受け入れること。生徒の輪の中に入って同じ目線で話し合うことで、声を引き出し議論を深める。
 「特に小中学生時代に不登校だったり、家庭環境が複雑だったりする生徒は、自分の声が反映されて希望がかなった経験自体が少ない」と指摘。イベント内容を生徒が出したアイデアを基に決めることで「自分が役立つという自己有用感、自己肯定感につながる」と分析する。
 目指すのは、生徒がそのままの自分で生きていいと思える場所。「受け入れられていると思ったら心を開いてくれる」と井上さん。安心な場づくりや子どもと対等な関係で話す姿勢が、子どもや若者の声を聞く第一歩になると信じている。
 声上げる権利 学校や家庭でも
 「わかもののまちサミット」で、開催地の菊川市が「こども・わかもの参画宣言」を発表した。すべての子どもや若者が自らの思いを表現し参画できるまちを理念に、参加・参画、意見表明・意見反映、協働の三つの指針を掲げた。若者の参画を権利として保障することや、子どもが意見を伝える機会を確保することを明記している。
「こども・わかもの参画宣言」の策定に携わり、サミットで思いを語る高校生=11月中旬、菊川市
 学生や市職員、教員らでつくる協議会が、6月から内容を検討してきた。学生委員のカトゥーズプール紗奈さん(17)=常葉大菊川高2年=は「日本全体がどの世代も同じ目線で話し合いができるようになってほしい。菊川がそのきっかけになれば」と宣言に込めた思いを語った。
 学生委員は宣言を子どもたちに伝えようと、文言にふりがなや解説文を付けた「こども・若者版」も作成。平野丈さん(17)=小笠高2年=は「子どもは親の影響を受けるが、うまく関係を築けない子もいる。親の言動によってつらい思いをする子どもが減ってほしい」と話し、学校や家庭など身近な生活の中で宣言の内容が広まることを願った。

 民主主義の担い手育てる
 「わかもののまちサミット」を主催したNPO法人わかもののまちの代表理事で、こども家庭庁こども家庭審議会委員の土肥潤也さん(28)に子ども・若者政策の動きを聞いた。
NPO法人わかもののまち代表理事 土肥潤也さん
 -こども基本法とは。
 「全ての子どもや若者が将来にわたって幸せな生活ができるような社会を実現するための法律。これまで子どもや若者は支援や保護、教育の『対象』とされてきたが、社会を形成する『主体』として位置づけるよう求めている」
 -なぜ今、子ども・若者政策が推進されているのか。
 「人口減少や不登校、いじめ、自殺など、さまざまな場面で子どもに関わる問題がある。政策的な取り組みをしないといけないほど深刻化していて、これまでの縦割り行政ではなく、横断的な動きが必要となり、こども家庭庁が創設された」
 -国や自治体はどのように政策を進めていくべきか。
 「こども基本法は、国や自治体が子どもや若者に関わる政策を進める際に当事者の意見を反映することを定めている。通学状況や家庭環境、障害の有無など、さまざまな子どもがいるので、意見を聞く手段を多様化する必要があると考える。子どもがいる場所に出向いて聞いたり、オンラインのプラットフォームを整備したりと一つの手段ではなく、複数の方法を用意したらどうか」
 -子どもや若者の声を聞くことで、当事者や社会にはどのような影響があるのか。
 「子どもや若者は自分の意見で身の回りの出来事を変えた経験が積み重なることで自己肯定感が上がり、壁にぶつかっても乗り越える力が付く。身近な場所から成功体験を重ねることで『社会を変えられる』と思う若者が増えることは、民主主義の担い手を育てることにもつながる」

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