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テーマ : 焼津市

共同体モデル創造の契機に 能登半島地震 建築家の支援(五十嵐太郎/建築評論家)

 2月下旬に石川県輪島市や珠洲市など能登半島地震の被災地を回る機会を得た。被災地で痛感したのは、アクセスの不便さだ。東日本大震災では、内陸の東北自動車道から複数の国道を使って沿岸部へのルートを確保する「くしの歯作戦」が行われたが、震源が半島の先端付近に位置する今回の被災地では難しい。

長谷川逸子が設計した珠洲市多目的ホール。前の道路がひび割れている
長谷川逸子が設計した珠洲市多目的ホール。前の道路がひび割れている

 山中を走る道路は、あちこちで谷側が陥没し、ガードレールが浮いていたが、脇に仮設の道路が建設されるなど、驚くべき復元力を見せている場所もある。穴水町に入ると、屋根の重みでつぶれた家屋や壁が剝落した蔵が出現し、大規模火災が発生した輪島市の朝市通りに立つと、阪神大震災で同じく焼け野原となった神戸市の長田地区の光景が重なった。
 珠洲市は地震に加え、津波にも襲われたため、東日本大震災の被災地と同じような風景に遭遇することも多い。長谷川逸子(焼津市出身)が設計した珠洲市多目的ホール(2006年完成)は、ガラス張りの壁面は無事だったが、前の道路は亀裂が入り、地中の基礎が見えているところもある。ホールは被災者支援の拠点に使われ、そばには支援者の宿泊所としてトレーラーハウス群が設置されていた。
 建築家の動きはどうか。東日本大地震では発生1カ月以内に、建築家と教育関係者による復興支援のネットワーク「アーキエイド」が活動を始めたり、集会所「みんなの家」の建設につながった「帰心の会」を伊東豊雄や隈研吾らが設立したりしたのに比べると、今回はまだ単発の支援にとどまっている印象が強い。
 それでも、世界各地の被災地で支援を続けてきた坂茂は被災者のプライベートを確保するために紙管を活用した間仕切りシステムを避難所に提供し、自身が設計した木造の仮設住宅も着工。名古屋工業大の北川啓介による簡易住宅「インスタントハウス」も設置された。
 さらに建築のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を先日受賞した山本理顕も被災地を視察し、地域のコミュニティーを維持する復興の重要性を語った。新しい共同体モデルが創造される契機となることを期待したい。
 (五十嵐太郎・建築評論家)

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