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テーマ : 裾野市

社説(9月28日)野生のクマと人間 山で遭遇しない工夫を

 環境省は9月、今年4~7月のクマによる人身被害が54件に上り、同期間の記録が確認できる2007年度以降で最多だったと発表した。同期間の「出没」は約8千件。年間2万件超だった20年度と同程度で推移しているという。
 クマは森林生態系の重要な構成種である一方、近年は人や農作物への被害が社会問題化している。人の生活領域への侵入を防ぐ工夫が必要だ。夏場から冬眠に入る11月下旬までは山中を活発に動き回る。キノコ採りや山歩き、キャンプなどで偶発的に遭遇しないよう、十分に注意したい。
 静岡県内では21、22年度に人身被害の報告がある。今年4~7月の出没は28件に上る。昨年度の21件を既に超えた。静岡市葵区口坂本、富士宮市上柚野、裾野市須山では道路周辺の目撃情報があった。今秋の状況によっては直近5年で最多だった21年度の82件を上回る可能性もある。
 県はウェブページで、鈴やラジオ、笛を携行して人間の存在を知らせる▽クマよけスプレーを持参する―など予防対策を呼びかける。山に入る際は留意したい。クマは特に、においに誘引されるという。キャンプ場や山に近い住居、畑に残飯など人の食べ物を放置してはならない。
 県内に生息するクマはツキノワグマで、北海道にすむヒグマより小さい。それでも雄の最大は体長150センチに達する。静岡市北部から川根本町、島田市、浜松市北部に及ぶ南アルプスエリアと富士山周辺に生息する。このうち、富士山周辺の「富士地域個体群」は県版レッドデータブックで「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されている。被害を抑えると同時に個体群の安定的な維持も求められる。
 クマの出没は全国的に増加傾向だ。ほかの野生動物と同様、過疎化や高齢化に伴う中山間地の荒廃、里山の消失、耕作放棄地の拡大が要因。集落近くのやぶの増加、つる植物の繁茂が、隠れ場所と食物を増やしている。栗や柿など果樹の放任も、クマを誘引する原因になりやすい。収穫しない木は伐採も必要だろう。
 クマの出没は、主要な餌であるブナの実の生育状態と関係がある。毎年初夏にブナの開花状況を調べている林野庁東北森林管理局は、今秋を「大凶作」と予想した。冬眠前の主要な餌となるブナの実などが不足し、食物を求めて人里に下りてくる危険性が高まっているとして、東北6県や新潟県はクマに関する注意報や警報を発令している。
 クマは本来、臆病な動物とされる。人間とクマの活動領域の間に緩衝地帯を整備すれば、互いに接する機会を減らせる。里山や樹木の適正な管理について、行政と地域が連携して知恵を絞りたい。

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