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テーマ : シニア・介護・終活・相続

言語聴覚士目指し大学で専攻 同じ境遇 支える側に【吃音と歩む 思い伝えたい②】

 聖隷クリストファー大(浜松市)3年の池ケ谷啓太さん(20)=静岡市出身=は幼少期から吃音(きつおん)があり、学校やアルバイト先で悩んできた。優しく接してくれる家族や友達がいても、100%の共感は得られないのがつらかった。今は同じ症状の当事者を支える言語聴覚士への夢を描く。「自分もそうだよ、苦しみ分かるよ」。心の壁を取り除き、同じ境遇で寄り添える存在を目指している。

言語聴覚士を目指す池ケ谷啓太さん=5月中旬、浜松市の聖隷クリストファー大
言語聴覚士を目指す池ケ谷啓太さん=5月中旬、浜松市の聖隷クリストファー大

 中学2年生の冬、その日は3学期の始業式だった。記憶から消したい一日だ。学年を代表して全校生徒の前で新学期の目標をスピーチする大役が回った。「絶対に無理、失敗する」。言葉が詰まる難発の症状に悩んでいたからだ。担任に断ろうとしたが思いは十分に伝わらなかった。
 ステージに立つと嫌な予感は当たった。これまでにないほど言葉に詰まった。原稿用紙1枚半のカンペ。普通に読めば数分で終わる内容なのに、10分以上もかかってしまった。教員は気にかけて「大丈夫か」と声をかけてきたが、大丈夫なわけがない。「意見を持っていても他の人と違って伝えるのが難しい。一番弱い立場にいる人間なんだ」。無力感にさいなまれた。
 小中高を通して音読の時間が地獄だった。文章を読もうとしても喉が締め付けられるように感じる。すらすらと読めた試しがない。周囲の環境に恵まれ、過剰にからかわれることはなかったが、同級生の顔ぶれが大きく変わった高校で症状はさらに悪化した。授業中に教員から指名されても言葉が思うように出ない。答えが分かるのに、答えられないもどかしさ。アルバイトでは電話対応のマニュアルに苦しんだ。
 転機は進路相談。吃音に悩む様子を知っていた担任の教員が言語聴覚士の職を紹介してくれた。似た症状で苦しむ人を支えたいと強く思い、言語聴覚士を養成する同大リハビリテーション学部言語聴覚学科への進学を決めた。
 この職業を知るまでは吃音を否定的に捉えていた。でも今は違う。同じ志を持った仲間と学ぶ日々は楽しい。「経験した苦しみや悩みは言語聴覚士として必ずプラスに働く」。素直にそう思えるようになった。

 <メモ>聖隷クリストファー大言語聴覚学科は「きこえとことばの相談室」で吃音に関する相談を受け付けている。臨床経験豊富な教員が応対する。
 静岡県内には当事者の自助団体「しずおか言友会」があり、浜松会場で毎月、静岡会場で2カ月に1度集会を開いている。参加者は20~70代と幅広く、吃音の相談や情報交換を行う。

 言語聴覚士 言語・聴覚・嚥下(えんげ)障害などがある人に検査や訓練、助言を行う国家資格。病院や社会福祉施設、教育機関など幅広い現場で活躍している。

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