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テーマ : シニア・介護・終活・相続

シャワーだけで毛が抜ける【アラ還2人のがん奮闘記⑦】

 1回目の点滴治療から約2週間後、脱毛が始まった。覚悟していても衝撃だったと思う。弘美は「シャワーの水圧で『ずるり』と束になって抜けるし、頭皮がピリピリ痛い。排水溝にたまった抜け毛の束が『亀の子たわし』みたいで」と嘆いた。

イラスト・ふじのきのみ
イラスト・ふじのきのみ

 半分ほど髪が抜けた頃、頭のてっぺんに、弱くなって洗髪時に絡まった毛髪がお団子状になって乗っていた。その下に残った髪の毛がひらひら。弘美は「鏡を見るのが怖い」と泣いた。これじゃ、前に進めない。私は意を決して「その『髪団子』、美容院で切ろう。気がめいるだけだ」と言った。返事は意外にも「私もこんな変なモノを頭に付けて、何してるんだって思ってた」。
 翌日、美容室の帰りに弘美はわが家に寄って「どう?」と毛糸のキャップを脱いでみせた。見事なつるん。思わず「頭の形いいね」と言うと、「そこで感心するかね?」と突っ込みがきた。良かった、メンタル、上向きになっている。
 治療中のメークも工夫した。眉は、治療開始前に自撮りした写真を参考に描く。アイラインはくっきり。大きいフレームの眼鏡で目周りをごまかす。ファンデーションもツヤ感があるものにして、もみあげの辺りにシャドーを薄く入れて陰影を出す。
 夏の苦労は汗対策だ。眉毛もまつげも無いと、頭皮の汗はそのまま目に入ってしまうのだ。ウイッグと頭皮の間に汗取り用ガーゼを挟み、1日に何度も取り換えた。顔の汗はメークが落ちないようにそっと拭いた。
 点滴回数が増すうちに、薬による異変は味覚にも生じた。「酸っぱいもの以外は変な味だよ。特に塩味。卵サンドイッチは塩の塊みたいだし、おみそ汁はお汁粉みたいに甘い」と言う。主治医の処方で味覚は回復したが、体の節々の痛みで立っていられない。この時期、仕事以外の時間は横になっていることが多かった。
 (藍田紗らら・ライター)

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