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テーマ : シニア・介護・終活・相続

社説(9月25日)介護離職対策 職場の理解欠かせない

 2015年に当時の安倍晋三首相が「1億総活躍社会」実現を目指すとして掲げた「介護離職ゼロ」は、目標に近づくどころか、遠ざかっていると言わざるを得ない。総務省の5年に1度の就業構造基本調査によると、22年に仕事と介護の両立が困難になり、仕事を辞めた介護離職者は10万6千人と、前回17年の調査より7千人増加した。
 働きながら家族を介護する「ビジネスケアラー」と呼ばれる人たちも、この5年間で18万3千人増えて364万6千人に上る。25年までに団塊の世代が全て75歳以上になり、介護が必要な人は今後も増加が見込まれる。団塊ジュニア世代はビジネスケアラーの予備軍ともいえる。
 政府は、こうした実態を改めて重く受け止め、介護離職対策に本腰を入れなければならない。もちろん、職場の理解と協力は欠かせない。
 離職対策に位置付けられている介護休業は、介護を要する家族1人につき通算93日、3回を上限に分割取得できる。休業中に家族に必要な介護サービスが見つからなければ、離職せざるを得ないケースもある。国や自治体などが介護現場の慢性的な人手不足の解消に力を注ぎ、介護保険サービスの拡充を図ることが、介護離職を防ぐ前提となるのは言うまでもない。
 その介護休業を取得する人も少ない。静岡県が21年度に地域企業約1600社を対象に行った調査では、20年度に介護休業を取得した従業員は58人にとどまった。従業員の数が少ない企業ほど取得していない実態も分かった。
 少子化対策の重要性が強調される中、子育て支援に対する企業の理解は進み、男性の育児休業の取得率は決して高くはないものの向上している。介護休業も企業が積極的に取得を促さないと取得者はなかなか増えないだろう。
 介護に直面しながらも管理職など責任ある立場にある場合、仕事への影響を懸念して休めないと考える人は少なくない。介護休業や介護保険制度の周知を図るのは企業の責務といえる。小規模企業に対しては周知のための行政の支援も必要だろう。
 離職すれば経済的に不安定な生活を余儀なくされる。たとえ、家族の施設入所などで介護から手が離れたとしても、年齢から再就職のハードルも高い。もちろん働き盛りの従業員の離職は企業にとっても大きな痛手である。
 経済産業省は今年、ビジネスケアラーについて、介護との両立による労働生産性の低下や介護離職に伴う労働損失などで経済面での損失は30年に9兆円超に上るという試算を公表した。仕事と介護の両立支援は経済対策の重要な課題としても力を注ぐべきだ。

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