科学未来館「老いパーク」 衰え体験 広がる共感 歩行、聴力… メカニズム紹介
加齢に伴う身体の変化をゲームなどで疑似体験できる「老いパーク」が、親子連れなどでにぎわっている。ユニークな常設展示を登場させたのは、東京都江東区の日本科学未来館。他にロボットや地球環境といったテーマが並ぶ中、高齢化を科学的な視点で取り上げ、異彩を放っている。
筋力の低下と姿勢の変化により、歩きにくくなった「高齢者のお出かけ」を体験するコーナーは、行列ができる人気。
両足に重りをつけた子どもがその場でゆっくりとカートを押していた。目の前のスクリーンに映し出されるスーパーを目指すのだが、歩幅が狭く設定されていて思うように進まない。信号が変わる前に横断歩道を渡りきれるかヒヤリとする場面もあり、無事スーパーに着くと拍手が起こった。
体験後、小学生の女児は「信号が青のうちに渡れるのか怖かった。お年寄りは毎日、こんなに大変でつらい思いをしているのか…」と漏らした。
他にも目や耳、脳に起こる衰えや老化現象のメカニズム、対処技術を紹介する。高齢者には聞き分けづらい「佐藤」と「加藤」を判定するゲームも。加齢に伴い、高い音が聞こえにくくなるため「子音をはっきり話す」といった対処法を示す。
同館には「高齢者だけでなく、視覚や聴覚に障害のある人への理解や共感が広がった」との声も寄せられているという。
老いパークは、昨年11月にオープン。企画に携わった科学コミュニケーターの園山由希江さんは「未来を考える実験場として機能させたいという狙いで、各分野の専門家に監修してもらい検討を重ねた」と話す。
誰にとってもひとごとではない老い。総務省によると、昨年9月時点で総人口に占める65歳以上の割合は29・1%で過去最高を更新し、世界最高に。10人に1人が80歳以上となっている。
老いパークの入り口には「1992年の65歳と2017年の85歳の歩く速度がほぼ同じ」とあり、医療の発展や生活習慣の変化の結果だと解説する。人の表情を読み取れる見守り介護ロボットなど、実用化が期待される技術も展示する。
堺市から訪れた北村雅子さん(82)は「若い世代は老いについて考える時間なんてないでしょう? 高齢者が日々何を思い、感じているのかを想像する機会になればいい」と期待する。
最後のコーナーでは「自分らしい老いって?」と問いかけ、来場者が70歳でやりたいことを記した答えが次々と映し出される。園山さんは「老いは解決するべき課題とされることが多いが、ここで付き合い方のヒントを見つけてもらえたら」と話している。