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テーマ : シニア・介護・終活・相続

生きがいある余生守る 高齢者の身元保証や葬送支援をする 石川真奈美さん【アフターコロナへ 私の視点⑪】

 「この3年間、損したね。取り返さなくちゃ」。先日、私たちが支援している会員同士の交流会で、1人の女性がそう口にしました。高齢者は、体力、気力、健康状態がまちまち。他の世代と比べて、個人差が大きいです。高齢者は新型コロナウイルスに警戒するよう注意喚起され続けましたが、元気な人もそうでない人もひとくくりに捉えて一律に対面の機会をなくすと、かえって健康を損ないかねない。長いブランクを経た今、痛感しています。

石川真奈美さん
石川真奈美さん


 以前は会員の居住地の近くを通れば立ち寄ったり、通院の付き添いの合間に食事したりすることもありました。そんなわずかな時間でも対面が減ると、途端に相手の様子や変化が分かりづらくなります。電話口では「元気だよ」と答えた会員が後日、認知症が進行していたと気付いたこともありました。感染への極度の不安から、精神科に入院した会員もいました。
 私たち支援員も、複数の施設や病院、お宅を行き来するため「自分が感染症を運んではいけない」と常に気がかりで、対面時間は短くしなければと思っていました。静岡、浜松両市で毎月開いていた交流会はほぼ中止し、会員の多くも、趣味のサークル活動などから足が遠のきました。

 今年に入り、そろそろ交流会を定期開催に戻そうかと会員に相談すると、「開催する方がいい。するリスクより、しないリスクの方が大きいから」と指摘され、はっとしました。
 高齢者は二つのリスクと隣り合わせでした。コロナに感染するリスクと、生きがいを失い、体力や気力などが衰えるリスク。両方をてんびんに掛けたときの「ちょうどよい加減」を誰も知らず、各自の自己責任で行動するしかありませんでした。私たちは3年近く、前者のリスクを避けることに重きを置きました。
 しかしその判断は正しかったのでしょうか。会員が日々の生きがいをなるべく諦めずに生活できるよう、手伝ったり後押ししたりできたのでは。交流会などの対面の機会を逃さず、工夫して継続すべきだったのではと悔やんでいます。
 呼吸器の持病がありながら、コロナ下も旅し続けた会員がいます。自身の老い先を分かっているからこそ「今のうちに」と突き動かされたのでしょう。会員が元気なうちに、残りの人生をどう生きたいのか共に考え、本人がそれを全うできるよう、できる限りの支援をしていきたい。さまざまな会員の生き方に触れ、その思いを強くしました。
 (聞き手=生活報道部・伊豆田有希)

 いしかわ・まなみ 認定NPO法人きずなの会(本部・名古屋市)の静岡、浜松両事務所長。静岡事務所開設時の2009年から支援員。12年から静岡事務所長、19年から浜松事務所長を兼務。契約した会員の高齢者が介護施設に入所したり入院したりする際、家族の代わりに身元保証人を引き受ける。受診時の付き添いなどの生活支援や葬送支援も行う。静岡市出身。60歳。

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