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大自在(11月11日)黒と白

 立冬を過ぎたのに、富士山は夏の装いだ。11月に入ってからの高温で、この季節らしい雪帽子が見られない。10日の降水と山頂付近の気温低下に積雪の期待がかかる。朝刊を手にした読者は、どんな姿を見ているだろう。
 2011年に静岡県が選出した「富士山百人一首」を見たら、4分の1が白化粧を詠んでいた。「雪の富士」は万葉の昔から絵になるのだ。日本語と中国語で詩を作る中国出身の田原[でんげん]さんは約20年前の「富士山」で、季節の境目をこう表現した。「秋が過ぎ去った後 それは/厳然と一個の雪山の風景を現した」
 その田原さんも参加する「しずおか連詩の会」が、佳境を迎える。今日が3日間の創作最終日。富士の裾野の三島市で、5人の詩人・歌人が全40編を完成させる。
 初日、口火を切ったのは詩人文月悠光さん。「夜のつめたさに驚き、黒い上着を羽織った。/そこから山は闇に身を潜めた。」。霊峰のシルエットを思わせる描写は、自然や歴史への畏敬をきりりと漂わせた。
 3年前の連詩の発句と対になっていて、興味深い。裾野市で開催した20年は、俳人長谷川櫂さんが「小春日和の青空から 三人の天女が/白い山頂に舞い降りて」と始めた。黒と白、地と天。重量感も対照的だ。言葉をなりわいとする二人が、自分の身体で何を受け止めたかがはっきり伝わる。
 連詩は、現場の空気を吸って世界を広げていく。天女が扉を開けた20年の連詩は、視点が宇宙に移り、最終行では地球の自転が描かれた。さて、23年の着地点は。白をいただく富士は登場するか。

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