テーマ : 読み応えあり

「記者のしおり」・凪良ゆう著・「星を編む」 「普通」問う波乱の物語

 本屋大賞受賞作「汝、星のごとく」の続編となる、全3編の短編集。前作よりも味付けが濃くなった印象があり、大きな出来事が次々と起きる。それでも魅力を損なわないのは、著者の人間に対する透徹したまなざしが貫かれ、読者をつかんで離さない強い言葉が幾重にもしたためられているからだろう。

「星を編む」
「星を編む」

 「春に翔(と)ぶ」の主人公・北原は高校教師。裕福でない家庭に生まれ、研究者の道を諦めた過去を持つ。ある女子生徒の窮地を救うべく大きな決断をし、結果、一人で赤ん坊を育てることになる。
 100ページに満たない紙幅の中でジェットコースターのような目まぐるしい展開が待ち受ける。本作だけを読んでも十分に楽しめるが、この話は「汝―」の前日談。「あの北原先生にこんな過去が…」と驚嘆させられる。
 表題作となる2編目は、若くして亡くなった作家の遺作を世に送り出すために悪戦苦闘する女性編集者を描く。妻の意思を尊重する「フェアな」夫との生活はうまくいっているように思えたが、子どもを持つかどうかを巡るすれ違いの末、悪夢のような事態に陥る。
 職場では「女の武器を使ったのか」とうわさされ、私生活では「なぜわたしだけが働くことに申し訳なさを感じないといけないのだろう」とつぶやく。働く女性の思いを代弁するような描写だが、著者の真骨頂は、その先にある。夫が妻に語る「正論」のグロテスクさを通じて、社会における「普通」や「公正さ」に疑問を突き付けるのだ。
 3編目「波を渡る」は、全ての話の後日談。若かった登場人物たちも老境にさしかかるほどの年齢となる。中心にいるのは、年の差があり「互助会のパートナー」として結婚した2人だ。
 性的な関係はないが、互いを思いやりながら、長い時間をかけて不思議な愛情を育んでいく。そして、若き日に死別した「運命の人」の存在が忘れられることも決してない。波乱の物語の最終章は、読後に穏やかな余韻を残す。(平川翔・共同通信記者)
 (講談社・1760円)

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞