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【防災気象情報見直し】避難誘導、抱えるジレンマ 命救うため、周知徹底を

 気象庁と国土交通省の有識者検討会が、「防災気象情報」を整理し、避難の目安となる5段階の「警戒レベル」を併記する案をまとめた。住民と向き合う自治体にとっては、情報が膨大になれば的確に伝える難しさがつきまとう一方、避難を促し命を救うために、きめ細かさが必要とのジレンマを抱える。専門家は、新たな情報を定着させるには周知徹底が重要だと指摘する。

全国の予報を統括する気象庁の「気象防災オペレーションルーム」=4月、東京・虎ノ門
全国の予報を統括する気象庁の「気象防災オペレーションルーム」=4月、東京・虎ノ門
大雨で浸水した愛知県豊橋市内=2023年6月
大雨で浸水した愛知県豊橋市内=2023年6月
昨年6月の大雨について説明する愛知県豊橋市防災危機管理課の星野好史課長補佐=10日、豊橋市役所
昨年6月の大雨について説明する愛知県豊橋市防災危機管理課の星野好史課長補佐=10日、豊橋市役所
全国の予報を統括する気象庁の「気象防災オペレーションルーム」=4月、東京・虎ノ門
大雨で浸水した愛知県豊橋市内=2023年6月
昨年6月の大雨について説明する愛知県豊橋市防災危機管理課の星野好史課長補佐=10日、豊橋市役所

 ▽混乱
 2023年6月2日、台風2号が日本の南を進み、前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んでいた。愛知県豊橋市では激しい雨が降り、名古屋地方気象台は午前6時52分、警戒レベル3相当の「洪水警報」を発表。午後にかけ、同じく3に当たる「大雨警報」(土砂災害)、レベルの位置付けがない「大雨警報」(浸水害)も追加した。
 市内の柳生川近くで飲食店を営む清水稔さん(64)は気象情報をチェックし、川の水位も気にしていた。気象庁は午後3時51分、愛知県に線状降水帯の発生を知らせる「顕著な大雨に関する気象情報」を発表。川はみるみる水位が上昇し、夕方に氾濫した。豊橋市は最高レベル5の緊急安全確保を発令した。
 それでも道路が冠水したことを知らず通行する車が相次ぎ、エンストで動けなくなる人が出た。
 過去にも浸水被害に遭った清水さんは「地元ではどんな情報に気を付けるか知っていても、外から来る人は分からないかも」と振り返る。
 「きめ細かな情報は役立つが、大雨警報に土砂と浸水があるなど複雑。私たちでも分かりにくく、住民は混乱するかもしれない」。豊橋市防災危機管理課の星野好史課長補佐はこう指摘する。大雨で次々と出た情報は、警戒レベルがないものもあり、ばらばらだった。
 ▽双方向
 気象庁が22年1月に2千人を対象に実施したインターネット調査では、55・1%の人が「種類が多すぎ分かりにくい」と回答。検討会は、2年余りの議論を経て、災害の種別ごとに情報を整理し、名称に警戒レベルを併記する案を示した。しかし、清水さんは「緊急安全確保という言葉は知っているが、レベルはぴんとこない」と漏らす。国交省の担当者も検討会で「レベルは浸透していない状況だ」と認めた。
 東北大の佐藤翔輔准教授(災害情報学)は、情報が増加するのは技術進歩や予測精度の向上が背景にあるとして「『分かりやすい』イコール『有用』とは限らない。うまく使えば、災害から命を守る可能性が上がる」と強調する。
 情報の名称変更や新設について「国からの一方向だけでなく、市民と双方向のコミュニケーションが必要。自治体や民間団体と協力し、ワークショップや親子向けイベントなどを開き、周知を徹底しなければならない」と話している。

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