性的少数者の「流出」 住みやすさ、格差解消を トランスジェンダー当事者/永田怜さん(29)掛川市在住【決める、未来 持続可能な街へ 私の願い⑤】
「もし友達にLGBTなどの性的少数者であることをカミングアウト(告白)されたらどうしますか」「家族に当事者がいたらどうですか」―。生まれつきの性と自認する性が異なる「トランスジェンダー」の当事者である永田怜さん(29)=掛川市=は、県内外の講演で聴衆に問いかけてきた。性的少数者を取り巻く現状を自分事として考えてほしい、との思いからだ。
1993年に長女として生まれた。自認する性は男性。中学生の頃、化粧をしたり、好きな男子の話をしたりする友達の姿に戸惑いを感じた。膨らんでくる胸が嫌で、何度も拳で殴った。当時は性同一性障害(GID)の知識もなく、高校を卒業する直前まで誰にも悩みを打ち明けられない日々が続いた。
そんな経験を重ねながら性的少数者に関する情報を得ていくうちに、周囲の人々に正しい知識を肯定的に伝える重要性を痛感した。「当事者の自分が話すことで救われる人がいるかもしれない」と考え、2017年から素性を明かした上での講演活動を始めた。回数は小中高校、市役所などで約50回に上る。
県は性的少数者や事実婚のカップルを公認する「パートナーシップ宣誓制度」を3月から導入し、行政側の動きも広がってきた。
一方で、学校など公共施設への男女共用トイレの設置や、学生服のジェンダーレス化といった環境整備は都会に比べて地方では遅れている現状がある。「学生服を自由に選べるかどうかで進学先を決める当事者もいる。最終的に住みやすい場所へ移り住む“人口流出”が、性的少数者の間でも起きている」と指摘する。
LGBT総合研究所(東京)が国内の成人約35万人から回答を得た19年の調査では、10人に1人が性的少数者に該当するとの結果だった。特別な存在ではないことを社会の共通認識として広げていく必要がある。当事者たちが住みやすさを実感できる地域社会の実現を願う。
ながた・れい 20歳から男性ホルモン注射を始めた。24歳で性別適合手術を受け、戸籍を女性から男性に変更。看護師として病院に勤務する。掛川市男女共同参画審議会委員も務める。